サークルインタビュー FrontView

津村根央惰眠野郎ファイナル

スリー・グッド・ドルフィンズ①
A5/102P/1600円
職業…漫画やイラストを描いています
趣味…散歩、ストローで飲み物を飲む、観光パンフレット・雑貨・おもちゃ収集
コミティア歴…コミティア106から
https://x.com/touhubook
観光地にある謎の土産物、リサイクル店で埃を被ったファンシーグッズ…。津村根央さんが自ら評する「所在のないマヌケで不条理な漫画」は、宝物をそっと見せて貰えたような、特別な気持ちを与えてくれる。
94年東京生まれ。アメリカントイや海外雑貨、『STUDIO VOICE』『リラックス』のような雑誌、『モモ』のようなファンタジックな児童文学に親しみながら育つ。絵を描くよりも文章を書く方が好きな幼少期だった。流行のアニメやゲームも楽しんでいたが「80〜90年代の音楽や作品が好きで、もっと早く生まれたかった」と笑う。10代の頃から美術館によく足を運び「何か美術に関わる仕事に就ければ」と、武蔵野美術大学に進学した。
漫画を描くようになったのは、大学1年の時に友達に誘われてコミティアに出たのがきっかけ。絵を描くのは得意ではなかったが、葬儀会社のバイト経験を元に初めて漫画を描き無料配布のコピー本を作った。「何もかも自分の選択で思うままに作れる漫画って、途方も無くて面白い。コミティアは大きな転機でした」。以来、個人サークルでの参加を続け、大学の卒業制作も「4年間ずっとやっていた『漫画』にしよう」と、都市や路上観察をテーマにした50ページ超の連作を描き上げた。「卒業制作展の優秀賞を貰えて、もう少し続けてみようと思いました」
卒業後は映画館や物産館でバイトをしながら漫画を描き続けていたが、コロナ禍と家族の病気、目前に迫る「30歳」という壁が津村さんを大きく揺さぶった。「『死』を自分事として実感しました。描いたり作ったり発表する時間はどんどん無くなっている。やりたいことも忘れていってしまう。急がなきゃ!って」
百均の商品で作った架空のお土産、パッケージまで作り込んだ粘土の怪物キャラ…今までは実行してこなかった思い付きを「肩肘張らずにやってみよう」と製作し、次々とSNSで公開し始めた。22年9月のコミティア141で発表された『帰郷』は初のオフセット本だ。「編集部に持ち込めるような、読者を意識した漫画を描いてみようと、何度もネームを練り直し3カ月かけました」。反響は大きく、その後の商業デビューへと繋がった。
『ティアズマガジン154』表紙イラストにもなっている『スリー・グッド・ドルフィンズ』は、22年11月より続く人気シリーズだ。「5年前のモノクロ版が気に入っていたので、続きをカラーで描くことにしました」。ポップでシュールな作風が幅広い読者層に刺さり、多くのファンを生んでいる。
今年10月にはWEBマンガサイト「COMIC熱帯」(光文社)で読切『岩毬山大観光ホテル』を発表し大きな話題を呼んだ。「日常の中で見つけた不条理の面白さ・感動・驚きを、他の人にも体験して貰うにはストーリーがある漫画という表現が一番合っている」と語る。「『これを一緒に面白がろうよ』っていう、誘いみたいな気持ちで死ぬまで描き続けていきたいですね」

TEXT / AKITA AI ティアズマガジン154に収録

ヒロタシンタロウヒロタ

ヒキガエル
A5/52P/700円
職業…漫画家
趣味…ガーデニング
コミティア歴…コミティア142から
https://potofu.me/hirota249
作品に登場する思春期の男女は、多感で時に恋をする。だが、彼らが繋がりを求めるのは人間だけではない。魚や虫もクリーチャーも、まるで意思を持つかのように物語に絡み付く。そんな複雑な関係性を、ヒロタシンタロウさんは青春のワンシーンとしてごく自然に描き出す。
新潟県の出身。自然に囲まれて育ち、生き物と触れ合ったり昆虫図鑑を模写して育った。加えて影響を受けたのは、幼少期に観た『ゴジラVSビオランテ』。「中学生あたりまで、ひたすらオリジナルの怪獣図鑑を作っていました」。漫画家になりたいと思ったのは小学生の頃。「『ドラえもん』や『ドラゴンボール』のアニメが好きだったんですけど、原作の漫画家になれば作品の世界を全部自分で作ることができる、と憧れていました」
だが怪獣や動植物は得意でも、人物を描くのがとにかく苦手だった。「人体のポーズ集などで練習しまくって、大学時代にようやく漫画が描けるようになったレベルです」。一時は漫画家ではなく、怪獣の立体造形を生業とすることも考えたという。「でも材料費や運搬費のお金がかかりすぎて…。会社勤めとの両立は無理だな、と諦めました」。やはり漫画しかない、と全てを賭ける意気込みで一念発起。人間の少女が巨大虫に出会い、別れるまでのひと夏の経験を描く83ページの作品『怪虫の夏』を執筆した。「ネームに数年、作画に1年以上かけて、持てるものを全て注ぎこみました」。最初は同人誌で発表する予定だったが、その前にpixivに投稿したところ編集者の目に留まる。そして18年には単行本『セイキマツブルー』(ワニブックス)で商業デビューを果たした。
商業活動をこなす一方で、22年からは作家仲間に刺激を受ける形でコミティアにサークル参加を行う。「以前から合同誌への寄稿や委託で販売してもらったことはあったのですが、実際会場に足を運ぶと目の前で本を買ってくださるのが嬉しかったですね」。昨年からはアダルト作品に力を入れており、橋の下でお互いの体を求める高校生2人と、開放的になった彼らに近づくオオサンショウウオの姿を描いた『山椒魚』を発表。「画力が上がってきたので、そろそろ描けるかな」と、作風はそのままに異種を交えた直接的な性描写にも挑戦している。続いて刊行した『Garden』は、とある女子高生が夢の中で思いを寄せる男子と、裸で密会する幻想的な雰囲気を持つ新境地だ。「肉体のエロだけじゃなくて、自然や人間以外の生物に宿る淫靡さも表現していきたい」という言葉通り、鬱蒼とした森で行為を行う背徳感や、男子に生える触手のなまめかしさまで、湿度の高いシーンが見どころの一つとなっている。
「どんなモチーフでも美しく、魅力的に描くことを大事にしています」と語るヒロタさん。全ての登場キャラクターに親しみを込めて紡がれる、日常から少しだけ足を踏み外したようなストーリーを、ぜひあなたも堪能してほしい。

TEXT / HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン154に収録

絹田みやみずいろのたまご

先生
A5/18P/200円
職業…自由人
趣味…料理
コミティア歴…コミティア147から
https://x.com/tukutyan
顔も名前も知らぬ者同士のSNS上での交流が、ささやかながらも確かに友情であったと気づくまでを感動的に描いた『友達だった人』。「毎回、登場人物たちに感情移入しすぎて、泣き笑いしながら描いています」という絹田みやさんは、現代に生きる誰もが共感できる感情の機微を丁寧に描き出す。
「子どもの頃から一人で過ごす時間が長く、自然と絵を描くことが好きになっていました」。高校では美術部でコンクールに向けて徹夜するほど絵画に没頭したが、漫画を描き始めたのは意外にも二十歳を過ぎてから。「それまで漫画を描いたこともなかったし、自分には向いてないと思っていました。ですが『のだめカンタービレ』を読んでいた時、なぜか「私でも描けるかも」と直感したんです」。すぐに文房具店に駆け込み画材を揃えたが、最初は苦労の連続。しかし、話作りにはそれまでの経験が活きた。「舞台好きの父親とテレビドラマを観ていると、たびたび脚本や演出の意図を聞かされました。それが物語を構想する際に役立っているのかもしれません」
その後は、おもにエッセイ漫画を描いては『note』に発表。「当時は漫画を投稿する人が少なかったためか、ユーザーの皆さんが褒めて育ててくれました」。そこで親交を深めた桜和アスカさんに誘われコミティア147に出展することに。「描くのはともかく、同人誌制作は勝手がわからず、印刷の手配や会場搬入などすべてが手探りでした」。完成した初めての同人誌『友達だった人』は事前の告知も功を奏し30部が十数分で完売。「『note』の読者さんも来てくれて、とても居心地が良かったです。作家さんと友達になれるし、編集者にも出会える。ここは私のためにあったんだ、って思ったぐらいです」と、現在までコミティアへの参加を続けている。
「物語には喜怒哀楽すべてを入れたいと思っています」と語る絹田さん。 コミティア149で発表した『3人いる』は、日々の仕事で疲弊した主人公がなぜか3人に分裂するという物語だ。容姿が同じ主人公たちはしばし共同生活を謳歌するが、次第に考え方や感情のズレが露わになっていく。主人公が2人の感情に自身が目を背けてきた本音を見つけ、 自分の一部として受け容れる様は「自分自身、控えめで思いのままに行動できないけれど、他人とわかりあいたいと思っています」と語る絹田さんの姿と重なる。互いの本心をさらけ出した後、本来気遣うべき自身の心に気づいていく結末も「現実では自分の心を人に伝えるのは難しいかもしれませんが、自分の良心に背くことがないよう、漫画の中ではきれいごとを描いていきたい」という想いの現れだ。
コミティア会場では、泣きながら感想を伝えに来てくれる人もいたと言う。それも幾多の感情から目を逸らさずもがく登場人物の様が、読者の琴線に触れるからこそなのだろう。これからも「自分が友達になりたいと思えるような人物を描いていきたいです」という身近な感覚で、物語の中に自分を探す旅に私たちを誘ってくれるはずだ。

TEXT / JUNYA AIDA ティアズマガジン154に収録