サークルインタビュー FrontView

Perico Perico

マジで付き合う15分前 4巻
A5/124P/1000円
職業…漫画家
趣味…漫画を売る
コミティア歴…コミティア109より
https://twitter.com/perico_op
家が隣り同士で幼馴染の高校生の男女が、関係を一歩踏み出して交際を始めるラブコメディ『マジで付き合う15分前』は、19年秋にTwitterで連載が始まったSNS漫画だ。当初は単発読切のつもりだった第一話が反響を呼び、主人公達のその後を期待する読者の声に押されてシリーズ化。「幼馴染が付き合う恋愛ものは、ありそうで意外とないので描いてみようと思った」と語る作者のPericoさん。本作の連載をきっかけにTwitterのフォロワーが急増し、現在は25万人を突破するなど、いま推したい「SNS漫画家」の一人だ。
Pericoさんは中学生の頃から同人活動を始め、投稿を経て大学在学中に『LaLa DX』でプロデビュー(亞和ミチ名義)。「LaLaの新條まゆ的存在になって欲しい」と編集者には期待されたが、当時ファンタジーを描きたかった彼女は恋愛ものに馴染めず、限界を感じてプロ活動を断念。就職後はボーカロイドの二次創作で同人活動を再開し、関西でオンリーイベントを主催するなど、プロデュースする立場の面白さにも触れたという。
14年には初の同人オリジナル作品『ボカロP物語』をマンガボックスに投稿。同作でコミティアに初めて参加したのち、持込をきっかけに『LINEマンガ』、次いで『ジャンプ+』で連載を獲得するが、いずれも商業的には不本意な結果に終わる。「思うように成果が上がらず、商業は私に不向きだなと感じました。同人や電子配信で生計を立てようと試行錯誤していたとき、たまたまバズったのが『マジで付き合う15分前』でした」
現在は連載3年目に入り、SNSで無料で読める手軽さはそのままに、各電子書籍サイトでの単行本配信や、「ちょっと贅沢なファンアイテム」という紙の同人誌、更には廉価版との位置付けの商業コミックスも刊行されるなど、多様な広がりを見せる。
『マジで付き合う15分前』が読者から支持されるのは、至近距離恋愛という題材の新鮮さや、王道の恋愛漫画ならではのエモさにありそうだ。「目標は毎回必ず読者をときめかせること(本人はキャバクラ感と呼んでいる)。読者を絶対に喜ばせて、リピーターになって欲しいんです」。大学受験、そして卒業と高校生活のクライマックスが間近に迫り、主人公たちの恋愛がどんな結末を迎えるのか。今後の展開からも目が離せない。
作家としてだけでなく、個人レーベル「Pericomic」の活動にも手応えを感じているというPericoさん。これまでは自身の作品制作が中心だったが、今冬には新たな試みとして、他の作家と作業を分担したコラボレーション作『異世界少女も楽じゃない!!』をKindleで発表した。ゆくゆくは後進の育成や個人作家の活動支援をしたいとも語る。「共感してくれる人を巻き込みながら、つながりを増やせるように挑戦していきたいです」
まだまだ可能性が広がるPericoさんの作品世界。これからもどんな「ときめき」を見せてくれるか、楽しみにしていたい。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン139に収録

zaki 12月32日

トンでも!? おとぎ話
A5/104P/600円
職業…遊び人
趣味…ブタ
コミティア歴…4年
https://twitter.com/zaki91644339
ブタ、ブタ、ブタだらけ。コミティア初参加から3年間ずっとブタのマンガを発表し続けているzakiさんは、ご自身の日々の暮らしを豊かにするために大好きなものを描く、アマチュアリズムの体現者だ。
富山の山間部に生まれ、イラストを嗜む父の影響で幼い頃から絵を描くことが好きだった。ブタ好きに目覚めたきっかけは小学生の時にテレビで観た映画『ベイブ』。「ブタは悪口にも出てくるからバカにされてる印象があったんですけど、ベイブは一生懸命で健気で可愛くて、ハートをわしづかみにされました」
将来の夢もなく、反発心も薄かった思春期。進路は中学校の美術部、高校のデザイン科、地元企業への就職まで大人の意見に流されるままだったそうだ。しかし、何年も夜10時まで働く忙しさが続くうちに心身の余裕がなくなっていく。気づけば絵を描くことから離れていた。その代わりにマンガを読むことが毎日の癒しに。「特に『乙嫁語り』や『乱と灰色の世界』の描き込まれたキレイな絵には新しい世界を見た気持ちになり、私もこんなマンガを描きたいと思うようになりました」
その欲求は、東京で開かれているMAEDAXさんのマンガ講座「背景美塾」を思いがけず知ってから強く燃え上がった。そんな折に遠距離交際中だった東京在住の相手との結婚話が追い風となった。9年間勤めた会社を未練なく辞め上京して入塾。話やネームの作り方を学ぶのに苦労したが無事に卒業し、塾で知ったコミティアに参加し始める。
「自分が本当に描きたいものを考えたら、ブタが大好きだったことを思い出して、これなら一生描けそうだと思いました」。しかもただのブタではなく、五匹組で、みんな同じ顔で、人語は喋らず鳴き声のみという縛りを自らに課して10冊以上も描き続けてきたというから驚きだ。本を目に留めた新たな読者をブタ好きに目覚めさせるほど好評を博している。「商業の編集者さんから声をかけていただくこともあります。でも、人間の話を描きませんか、と言われることが多くて、いつもやんわりとお断りしてます。描きたいと思わないものに時間を取られるのは絶対イヤです」
今は定時で上がれる仕事をしながらマンガを描いているそうだ。胸にあるのはコミティア常連の作家・川崎昌平さんの言葉だ。著書を読んで『プロにならなくてもいい』ことに気づき、「純粋にマンガを『描きたい』気持ちさえあればきっと楽しく描ける」と考えるようになる。実践を重ねてそれを肌で感じ、「全ての中心にマンガを描くことを置いたら、私生活も仕事も整って、毎日が楽しくなりました」。以来、毎回のコミティア参加を締切にして新刊を出し続けている。ツイッターへのマンガやイラストの投稿も、毎日やらないと落ち着かない「歯磨き」に近い日課だそう。
「イヤなものは何もない、幸せしかないマンガを描くことで、生きる楽しみを得てきました。だから、私にとってマンガとは人生です。このまま好きを真っ直ぐ突き詰めて、死ぬまでブタを描いてやります」

TEXT / TAKASHI MENJO ティアズマガジン139に収録

ののもとむむむ SOFT MATINE

Delaware
A5/28P/300円
職業…むしょく
趣味…変な本を読む 変なこと考える ウインドウショッピング(野菜とかPCとか)
コミティア歴…6〜7年ぐらい?
https://potofu.me/nonomoto-mumum
失恋から不眠に悩む少女が、羊の臓器によく眠れる薬があると聞きお腹を掻っ捌く──「おやすみひつじたち」。ののもとむむむさんは、どこか我々の実社会に重なる悲哀や苦悩を寓話的に描く。心を抉られつつも、慰撫されるような共感を感じられるのがののもと作品の特異性だ。
漫画を描くようになったきっかけは、中高生のときに読んだ西島大介氏の「ディエンビエンフー」。「読んで脳天に雷が落ちた衝撃を受けました。ポップな絵柄から血みどろの戦争が繰り広げられる様子はすごく刺激的で、ディエンビエンフーがなかったら自分は絶対漫画自体描いていないと思います」
大学では芸術を専攻し、卒業後は専門学校を経てデザイン会社に就職。その傍らでコミティアに参加し漫画を発表していたものの、過酷な労働環境もあり満足に漫画を描けない日々が続いた。しかし、退職をきっかけに吹っ切れ、「下手くそでもいい、とにかく8P以上の漫画を描き切ろう」「何か読者に印象を残せるようにしよう」と明確な意志を持って作品作りに取り組んだ。そうして19年に発表した『Ghosts』という短編集が評価され、ティアズマガジンのP&Rに初掲載される。「コミティアには、どんな作品を公開してもいつも温かく迎え入れてくれる懐の深さを感じています」。その後は、年3〜5冊のペースで作品を発表し続けている。
キャラクターが起点となりストーリーが展開される作品も多いが、ののもとさんの作品の主体は「現象」だ。「キャラクターを補完するために現象が配置されているわけではないんです。その現象自体で完結していて、それ以上でもないし、それ以下でもない。人間と森羅万象を同列のものとして考えている部分があると思います」と語る。例えば、「嵐の夜のお仕事」では部屋中に雲のような憂鬱があふれる様子が描かれる。ただ、作品を通して「見る人に『ゴツッ』と衝撃を与えるような現象」を描こうとしてきたののもとさんの中では、「そのような突飛な出来事も自分の作品ではありふれたことのカテゴリなんです」とのことだ。
20年に発表した『ギャランホルンは普通』は、「普通」に仕事のできない神様のリリイを通じて、「普通」という概念に疑問を投げかけた意欲作だ。この作品は発表した後に編集者の目に止まり、今はその方と試行錯誤しつつネームに向き合う日々だという。「今はいろんな引き出しを作っている最中なんです。エンタメも描けるし、自分よがりなものも描けるように。それをやっていると、自分の足りないところとか、詰めの甘さとか、色んな悪いところが見えてくる」と四苦八苦しているようだ。「ただ、苦しんでいる中でもどこか充実感があり、今まで考えたことのないような部分で漫画を考えるようになりました」
自分の表現を追求し続けるののもとさん。ひたすら思索を重ね、悩み、描き続ける果てには、きっと新しい作風が花開くに違いない。期待を寄せつつ、心待ちにしたい。

TEXT / RYO WAKABAYASHI ティアズマガジン139に収録