COMITIA136 ごあいさつ

私たちの文化が未来に残さねばならないこと

6ヵ月半ぶりのコミティアにようこそ。
昨年11月のコミティア134開催時の「ごあいさつ」を書いた時には、やっとここからが再スタートだと考えていました。まさか次の2月回が中止となり、半年間に2回の緊急事態宣言が出るなど、新型コロナウイルスとの闘いがこれほど長期化するとは予想できませんでした。
無我夢中で走り出して、やっと1周走り終えたと安堵したら、今度はどこがゴールか分からないマラソンが始まったような、先の見えない苦しさが続きます。私たちスタッフも辛いけれど、参加者の皆さんのモチベーションの維持が心配です。今年の後半には、ワクチン接種の普及で状況が改善することを願いつつ、挫けず日々の開催準備を続けたいと思います。

あらためて、2020年から続く新型コロナウイルス感染症による世界的なパンデミックは、人類史の大きな転換点として後世に記憶されるでしょう。これまでの生活様式は激変し、コロナ後がどんな世界になるかはまだ皆目判りません。
進化するものがある一方、淘汰されるものもあるでしょう。そんな日常の変容の中で、文化は生命維持に必要のない「不要不急」の存在なのかが多方面で議論を呼びました。
緊急事態宣言や重点措置の発出の際には、映画館や劇場、美術館などの施設閉鎖、ライブイベントの中止や人数制限などが要請されました。それも時期や地域により対応が違い、行政側の判断の線引きも判りづらく、現場を混乱させています。
文化の受容のスタンスが人により違うのは当然ですが、例えば小説家のスティーヴン・キングはこのコロナ禍に「もしアーティストが不要だと思うなら、隔離中(自宅にいる間)、音楽、本、詩、映画、絵画なしで過ごしなさい」と発言しています。その言葉の真意に頷く人は多いでしょう。
一方で、この危機的な状況を作品・表現の形で記録することも文化としての大切な役割です。難しい環境下だからこそ生まれる物語の設定や発想。あるいは直接のテーマでなくとも、背景に描かれる日常描写や、キャラクターの感情の機微に映り込むものもあるでしょう。それを後に見返す時に往時の情景はまざまざと瞼に甦るはずです。
私たちは歴史に学んで、これから進む道を判断します。その時に私たちの文化が、未来に向けて残さねばならないことを今一度考えたいと思うのです。
例を挙げると、14~15世紀にかけて伝染病のペストがヨーロッパで大流行し、その後に古典文化の復興を謳うルネサンスが興ったと言います。また15世紀にドイツでグーテンベルクが活版印刷技術を発明し、印刷物の大量生産が可能になって、文化の伝播伝承に大きな役割を果たしました。
では、現代のパンデミックがどんなパラダイムシフトを生むのか? それは現時点では分かりません。ただ単純に元に戻ろうとするのか、あるいはもう一歩先の進化を目指すかが、問われているように思います。
この苦しい時期をどのように過ごすか悩むのは、創作者も同様でしょう。けれど今しかできないインプットはたくさんあります。物理的な時間があるなら、何かを学んだり、縁のなかった表現に触れるのも良いでしょう。また、こうした特殊な条件下で自分や周囲が何を考え、どう行動したかをよく観察することは、創作の糧にもなりえるでしょう。
一方でアウトプットは、今の自分の考えや感情を創作物の形にすることで、それを自分の中で整理する効果があります。今しか描けないものもきっとあるはず。何より、描く手を止めないことが大切だと思うのです。
昨年、9ヵ月半の中止期間を経た11月のコミティア134で提出された見本誌は、まさに創作熱が滾った熱い作品ぞろいでした。今回もその再来を期待しています。

本日は2359のサークル・個人の方が参加しています。昨年11月から、中止となった今年2月、そして今回6月と、サークルの申込数はじわじわ増えており、開催を待ち望まれていることを感じます。会場の収容人数制限があり、落選となったサークルの方には本当に申し訳ありません。
また、スタッフ不足を心配して、今回はこのカタログを印刷している緑陽社の社員の方々が応援に来てくれました。この場を借りて御礼申し上げます。
そして、あらためて今日この会場に集ってくれたサークル参加、一般参加の皆さんに感謝を捧げます。待っていてくれたあなた達がいるから、私たちスタッフも励まされて準備を続け、今日の日を迎えることが出来ました。
最後になりましたが、描き手と読み手が作品を介して直接出会い、その原初の歓びに触れられる場所として、このコミティアを開催します。

2021年6月6日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

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