サークルインタビュー FrontView

森倉円 CANVAS

今日、君に恋をした。
A4/40P/1000円
職業…イラストレーター
趣味…おいしいものを食べに行く
コミティア歴…COMITIA112より
https://morikuraen.tumblr.com/
森倉円さんといえば、「キズナアイ」を連想する方も多いのではないだろうか。バーチャルYouTuberの草分けとなったアイドルキャラクターのデザインを担当したのは16年のこと。「アイちゃんは『かわいらしさ』がテーマだったので、当時の私なりの〝かわいい〟をありったけ詰め込んでみました」
その後も、国内外での個展や「絵師100人展」への参加のほか、マルイのアニメCM「猫がくれたまぁるいしあわせ」、コトブキヤのプラモデルシリーズ「創彩少女庭園」など、笑顔が似合う女性キャラを生み出すイラストレーターとして活躍の場を広げている。
子供の頃から、森倉さんがずっと続けている趣味は「お絵かき」。特に、手を動かしてラフに線を描いている時に楽しさを感じるという。「文字と同じで、線などの筆致にはその人にしかない個性を感じて、強く興味を惹かれます」
高校生のころ、個人でホームページを作り、ネットで作品の発表を開始。初めはペンタブレットの存在を知らず、アナログとマウスで作画をしていた。優美な線でキャラを描く作風が次第に注目を集め、大学在学中に小説のイラストでプロデビュー。その後も学業と並行してイラストの仕事を続けていたものの、就職に伴い一時休止。
しかし、久しぶりにコミケットに一般参加したことが、森倉さんの人生を変えるきっかけになった。「自分の生活には絵を描く時間が必要だと気づいたので、気負わずにまたチャレンジしてみようという気持ちでした」。13年から専業として作家活動を再開。同年、家族や友人の協力を得て同人活動もスタートする。「こんな瞬間が見たい」と思わせるキュートな少女たちをモデルに、彩り豊かなファッションや季節感あふれる場面などをテーマにした作品集を定期的に発表。またたく間に支持の輪を広げ、人気サークルの仲間入りを果たした。
一昨年からは、新たに6人の創作少女の個性やストーリーに着目。『デートしようよ。』(19年)、最新作『今日、君に恋をした。』(20年)等は、少女たちが特別な瞬間にだけ見せる愛らしい姿を読切形式で描いた作品集だ。「女の子の生き生きした瞬間を描きとめたいんです」と語る森倉さん。表情やポーズといったキャラ自体の魅力はもちろん、ファッションやアクセサリー、小物や背景に至るまで、表現者としての細やかな心遣いが感じ取れる点にも注目だ。
イラストレーター、また子を持つ親として慌ただしい日々を過ごす森倉さん。多忙な合間を縫っての同人活動は毎回、試行錯誤の連続だと話すが、イベントに参加することは楽しみの一つになっている。「同人は、自分の好きなものを表現できる世界。それを人と共有することで交流が生まれたり、創作意欲をもらえたりするので、今後もできる限り本を出し続けられたらいいなと思っています」

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン136に収録

旧都なぎ QTONAGI

SCERZO2020
B5変形/24P/700円
職業…イラストレーター
趣味…音楽を聴くこと 散歩 鳥と遊ぶこと
コミティア歴…2014年から
https://twitter.com/QTONAGI
無垢なものへの憧れと畏れ。神聖な雰囲気を纏い、重ね塗りの油絵風の筆致で描かれる少女たち。アンティークの香りと哲学的視線から成る表現はイラストレーター・旧都なぎさんが奏でる独特の世界観だ。11年前に「生涯で1万枚の絵を描きたい」と思い本格的に描き始め、現在は約1550枚。一枚にかける時間は約10時間。一枚一枚を積み重ねていく姿はまさに「お絵描き仙人」だ。
幼い頃から友達と少女漫画のキャラクターを描きあい、小学生の時にはすでにインターネットの掲示板で絵を発表・交流していた。後にイラスト系の専門学校へ進学。卒業後は独立心の強さからすぐにフリーランスとして活動。初めの数年はすべての依頼をこなしても、収入に波があり苦しい生活だった。これまでプロとしてCDジャケットやアパレルグッズ、カードゲームのイラストなど多岐に渡って活動。19年と20年には最前線で活躍するイラストレーターを紹介する『ILLUSTRATION2020』と『visions 2021』に掲載された。
喋るのが不得手だと言う彼女にとって絵はコミュニケーションツール。「創作をすることで、自分から出てくる価値観を共有・議論したい」と話す。自分や創作について知ってもらうため学生時代からお絵描き配信を続けている。配信はファンや身内との交流は深まるが、どうしても新しく知ってくれる人を増やしにくい面がある。そんな中、友人づてにコミティアを知り14年に初参加。対面でのコミュニケーションの楽しさも知り、参加を続けている。「ファンの人だけではなく会場で初めて作品を知ってもらえることが楽しいし嬉しい」
彼女の代表作『ALGL』は生と死の狭間で揺れ動く少女・ローランドを中心としたイラストと文章による物語だ。12年より構想を始め、15年からコミティアでシリーズ作として発表を始めた。そして8年間の集大成として『やがて霧色は曇りなく』(実業之日本社)のタイトルで20年11月に初の単行本が刊行。「お話を頂いてから、世界観や物語が世間に受け入れられるか、絵の魅力と技術だけで勝負できるかが不安でした」と話す。そんな時に背中を押したのはゲーム『The Last of Us Part II』との出会いだ。プレイヤーは正義の対立による暴力の連鎖から善と悪の倫理観を問われ、賛否両論の出るシナリオが話題になった。「それを世に出したことに勇気をもらったんです。肯定されないことを恐れて自分らしさのない話を描くと、何もないものになってしまう」と挑戦を決意した。
創作を続けることができたのはきっと人よりも少し勇気があったから、と振り返る。常に意識するのは、自分の創作をきっかけに考え、表現する人が増えること。それを受けて自分もまた表現をする循環を形成することだ。そんな果てのない創作の旅路をゆく末に目指すところは、最期が一生のピークになること。「生きてて良かった、幸せな人生であったと死ぬ時に思いたいです」そう語る彼女は答えを求めて考え、表現し続ける。

TEXT / HARUKA MATSUKI ティアズマガジン136に収録

朝陽昇 朝陽昇

宇宙のどこかできみを待つ
A5/36P/500円
職業…漫画家ほか
趣味…睡眠
コミティア歴…6年
https://twitter.com/asahinoboru888
動くぬいぐるみ、ビール缶に棲む小さな女性といった「ありふれない」存在が何故か「ありふれた日常」を動かすキーとなり、読者の内で活き活きと動き始める…。話の背景を読み手の想像に委ねる朝陽さんの作品は、どれを取っても異なる印象を受ける。「スペースに来た方から『全部同じ作家さんの本ですか!?』と驚かれることもありますね」
小学生から地元の同人誌即売会にサークル参加していた朝陽さん。漠然と漫画家の夢を抱くが話作りが苦手で、中学の頃には壁にぶつかった。そんな中、漫画を描く人に向けた情報誌『コミッカーズ』(美術出版社)に出会う。実践的テクニックや才気溢れる作家の特集などに、毎号大きな刺激を受けた。「技法を解説する『漫画のスキマ』(菅野博之)の連載は、漫画を描けない時期に読み込みました」。知識と技術を蓄積すること数年。高校卒業前に、念願のオリジナル漫画をようやく描き上げる。同作を「少年漫画なら講談社が良いよ」と友人に勧められるままに『週刊少年マガジン』に応募したところ、佳作を受賞。美大在学中の06年、読切作品で商業デビューを果たす。
だがその後は「漫画のことや自分の人生に悩んでしまった」時期を過ごす。そんな朝陽さんが三たび漫画に戻ったのは10年。「実家に帰っていた頃、短い作品なら描けるかな、とふと思ったんです。WEBなら簡単に見てもらえるので」と、ピクシブに短編「欲望レース」をアップした。心の中で欲がせめぎ合う様子をユーモラスに描く同作は、12年の初連載作『空想郵便局』(マッグガーデン)に繋がる思い出深い作品となった。
活動範囲をコミティアにも拡げたのは14年。「商業で通らないニッチな作品も発表できます。直接感想を頂けるのも嬉しいです」と継続して参加を続ける。「肩の力を入れずに自由に描けています。その分商業ではちゃんとやれる、と言いますか(笑)」
17年の『眠り姫は目覚められた』は、かつて眠り姫がいたが、今は執事のロボットだけが残る城に訪れた旅人を描く作品。「全く気負いなく、最後まで自然に描けました」と胸を張る自信作だ。ツイッターにも掲載すると、7万いいねもの反響が。「描いていないことも深く考えてくれる方が多くいました」。そうした幻想的な作品の一方で、19年にはコミティアに初サークル参加する宇宙人のコメディ『宇宙のどこかできみを待つ』を発表。「創作の楽しさを描きたかった」と振り返る。「話の展開を考える時は、自分の癖を外すようにします。過去のやり方に固執せず、それぞれの話に合った描き方を大事にしたいです」
今後については「『面白いな』と思ったことをずっと描ければ満足」と話す。昨年は作品集『麦酒姫』(KADOKAWA)を刊行、商業・同人・WEBの活動が結実した。そんな朝陽さんが、漫画で一番好きな部分とは?「コマとコマの間です。その間の時間、出来事を描かずに表現できるのが面白い」。読者が多様な世界を思い描ける、それが朝陽さんの作品が持つ変わらぬ醍醐味なのだ。

TEXT / HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン136に収録

にしうら染 染色

フランスふらふら一人旅
~パリ・アパルトマン生活編~
A5/74P/1000円
職業…漫画家
趣味…旅、美術館に行く事
コミティア歴…コミティア90から
http://sen.hiho.jp/sensyoku/
2019年9月、にしうら染さんがフランスに約1ヶ月滞在、パリでアパルトマン生活をした記録を描いた連作『フランスふらふら一人旅』(既刊2冊)。そこに暮らす人々の息吹を感じるのは、まさに旅の醍醐味。コロナ禍で外出もままならない今読むと、この厄災が収束したら思いっ切り旅行をしたい、と思わせる作品だ。
2019年は、にしうらさんにとって転機の年だった。春先に商業誌の活動が一段落し、これまでの漫画家生活を振り返ると、「仕事をこなすのに必死で、インプットを怠っていた」と実感。ぽっかり空いたこの時間にしっかり勉強したり、新しいことをしようと決意する。かつて美大で美術史を学んだ経験から、「好きな画家の絵を思う存分観たい! パリで生活してみたい!」という昔からの夢や憧れを、思い切って実行に移すことにした。
実は行く前には、漫画家を続けるべきか悩んでいたという。約10年で7冊の単行本を出し様々な雑誌で描いてきたが、思ったほどの手応えが得られず、「これまでのやり方は正しかったのか」と、複雑な想いを抱えながら「自分を見つめ直す」旅だった。
旅行の効果はてきめんだった。滞在中、異端と言われても己の表現を貫いた印象派の画家たちの絵画やアトリエを巡って刺激を受け、迷っている自分が馬鹿らしくなった。そして「描きたいことを貫こう」と漫画家を続けることを決める。帰国後の同年11月のコミティアで、約4年ぶりとなる同人誌『Bon Appe´tit!』(商業誌再録)、『台湾もぐもぐ二人旅』(旅エッセイ)を発行。後者は意識してストーリー物とはタッチを変え、同じ作者と気付かない人もいたそうだ。
それまでの同人活動では、商業の仕事の合間に「その時に描きたいもの」を勢いに任せて出していた。しかしこのままでは成長につながらないと考え、作品の幅を広げるため、自身の海外旅行経験などを活かした旅エッセイにチャレンジすることに。すると、今までにない幅広い読者から反応があり、「一気に世界が開けた」という。
旅行記を描く時に意識するのは「情報を羅列したガイドブック的なものでは無く、自分が旅先で感じたことをのせて描く」こと。美術館で圧倒されたり、街角でのミニ演奏会にほろりとしたり、旅先のプチトラブルや美味しい料理の記憶など、作者の体験と実感を込めた描写が臨場感を生む。そうして読む人も共に旅を楽しんでいる気持ちになれるのが人気の秘密だろう。
今後の同人活動は、まずコミティア136でフランス旅行記「ノルマンディー編」を発行。以後も旅行記と創作ストーリー漫画をそれぞれ描いてゆく。商業活動は、『フォアミセス』(秋田書店)掲載の「彼女と私の異国ごはん」のシリーズ連載がメインとなる。
「死ぬまで自分にとって理想の漫画を追求したい」と語る、迷いが吹っ切れたにしうらさん。誘われる物語への旅がどうなるか、楽しみでならない。

TEXT / KIMIO ABE ティアズマガジン136に収録