COMITIA129 ごあいさつ

異文化コミュニケーションの夏

夏の終わりのコミティアへようこそ。今年の夏は天候不順が続いており、開催当日の天気や気温がどうなるか予測が付きません。今回の会場も5月に続いて青海展示棟。仮設の建物でもあり、初めての夏を迎えて施設の空調の効き具合は蓋を開けてみないことには分かりません。不安定な環境ですが、それぞれで可能な自衛をお願いします。

さて通常はコミティアの開催スケジュールを2回先までしか公表していないのですが(変更の可能性があるため)、今年は来年5月のスケジュールまで早めに公開しました。ご存知のように今年から来年にかけて、オリンピック・パラリンピックの影響で、東京ビッグサイトのホールの貸出が大幅に制限されます。コミティアは可能な限り例年通り年4回の開催を会場にリクエストしていますが、来年夏以降のスケジュールは現時点ではまだ未定です。決まり次第、随時発表してゆきますので暫くお待ちください。

なお、この時期に合わせて、「DOUJIN JAPAN 2020」というプロジェクトがスタートしました。これはコミティアも含む、東京ビッグサイトで開催される同人誌即売会関連の7団体が幹事役となり発案されたもの。主な内容は公式サイトによる「全国イベント開催スケジュール」とサークル向けの「新刊カード」の企画。「イベントスケジュール」は、この期間に変動の多い開催日程を一覧で見せるのと、今後増えるであろう訪日外国人参加者へのアピールも意識したもの(英語サイトは準備中)。「新刊カード」とは、このプロジェクトに賛同する同人誌印刷所で同人誌を刷ると「新刊カード」が1枚贈呈され、それを集めるとイベントから特典がもらえるというもの。イベント開催が減ってもこれまで通り同人誌を出して欲しいという新刊発行応援企画です。コミティアでも鋭意準備中なので、次回11月まで楽しみにお待ちください。

さて、お知らせはこの辺にして、先日IOEA(国際オタクイベント協会)さんのお誘いで、中国・上海のイベントを見学してきた報告をさせてもらいます。

「すわコミティアの海外展開!?」という話ではなく、最近はコミティアにも海外からの来場者が多いので、現場での対応を検討するために、まずは彼らにとっての日常のイベントを実地で観てみたかったのです。

参加したのは「上海COMICUP24」(6/7~6/8)。年2回開催される中国で最大規模の同人誌即売会です。会場は上海郊外の、世界最大級という巨大な展示会場の3ホールを利用し、1ホールは同人誌系、残り2ホールは商業作品の企業プロモーション系と、きちんと館が分けられています。

同人イベントの規模は約2000スペース×2日(通し参加が多い)で、主催者によると2日間の総来場者は約16万人とのこと。中国版コミケ+アニメEXPOというイメージでしょうか。コスプレ参加者も多く、日本と違い規制がゆるいためか、街中で普通に着替えたり、巨大な造作物を用意して大いに盛り上がっていました。

同人誌全体の傾向はオールジャンルで、サークルは女性向けが多く、日本作品の2次創作も数多くありました。一方、中国はやはり性表現の規制が厳しく18禁はNG。昨年は国内でBL系作家の逮捕者が出たようで、同人系のホール内での写真撮影禁止など主催側も気を使っている様子でした。

さて、スペースで本を手に取って驚くのはその絵のクオリティの高さ。マンガはまだ数が少ないものの、イラストはその画力や多彩さなど、日本の同人誌と全く遜色がないレベルでした。印刷の質も高く、本文フルカラーは当然、凝った装丁の本も多かったです。また、中国からコミティアにも参加するサークルさんをいくつか見つけられたのも嬉しいことでした。

興味深かったのは、即売会でもアプリによる電子決済が普及していて、本の売り買いに現金があまり使われないこと。こちらも慣れないアプリに悪戦苦闘したり、売る側も電波状態が悪くて決済に時間がかかったり、色々不便もありましたが、電子決済大国・中国を体感できました。

こうした同人イベントはすでに中国各地の主要都市では普通に行われているそうで、同人文化の世界的な広がりを大いに実感しました。WEBは世界中の様々な表現者をつなげ、そしてリアルな場所に足を運ぶことも、国境を越えて距離を近づけたように思います。

海外のマンガファン・アニメファンと接してあらためて気付いたのは、言葉の壁を越えた、絵による表現の豊かさと伝達力の強さ。それは絵と言葉を組み合わせて物語を描く、マンガという表現の強みなのかもしれません。日本の作品に海外のファンが増え、また日本の作家も海外の作品から刺激を受ける。そんな異文化コミュニケーションが、マンガの世界をより深めてくれるように感じました。

前述したように、来年はさらに訪日外国人が増えることが予測されており、彼らは初めての日本の同人イベントにも期待して足を運ぶでしょう。迎える側のコミティアも、可能な形で彼らを受け入れ、そしてその期待に応えて、彼らがまたここに足を運ぼうと思ってもらえるように、イベントとしての対応を考えてゆけたらと思います。

最後になりましたが、本日は4017のサークル・個人の方が参加しています。作品が普遍性を持つならば、言葉や文化の壁を越えて伝わるものがきっとあるはず。今日という日に様々な出会いと新しいコミュニケーションが生まれることを心から願っています。

2019年8月25日 コミティア実行委員会代表 中村公彦