サークルインタビュー FrontView

大家 あけぼのアパート

僕らの夏と灰
B5/46P/600円
職業…会社員
趣味…映画鑑賞
コミティア歴…コミティア121から
https://twitter.com/ksyjkysk
主人公が人を愛するロボットだったり、擬人化された犬と猫だったり、地球崩壊を迎える人類だったり、秘密基地のキャンプに行った子供たちだったり…。SF作品が多いとはいえ、その世界設定やキャラクターのアイデアの多彩さ多様さに驚かされる。作品のイメージに合わせて、絵のタッチやコマ割りも微妙に変えるテクニックも巧みだ。コミティアの見本誌を読んでいても、同じ作家・大家さんの作品とは気付かないことがあるほどだ。
マンガを初めて描いたのは10歳の頃。しばらく描かない時期もあったが、絵が好きで高校は美術科に進学し、基礎を学んだ。デザイン関係の専門学校へ入学するが、授業についていけず悩んでいた時、何か自分の可能性を開拓しようと再度マンガを描き始める。思いついた物語を絵とコマと文章で表現する楽しさにすっかりハマり、日課になったという。
作品はまずWEBで公開した。「見て見てこんなの描いたよ」くらいのつもりだったが、徐々に描いた作品が溜まったので、2016年から同人誌を作り、即売会にも参加する。コミティアの初参加では、提出した見本誌を読んで買いに来てくれた方が多くびっくりしたという。そんな手応えも新鮮だったようだ。今は同人誌の自由さを満喫している。
彼女の作品の視点は、たまに人類サイドに立たずに地球を眺めてみせる。作中で何度も地球を滅ぼし、人類は助かったり、絶望したり。そのたびに選択肢の扉を開いてみせる。「地球を滅ぼす展開を考えるのは楽しいか苦しいか」と質問したところ、「めちゃめちゃ楽しいです」と返ってきた。曰く「SFの魅力は現実世界ではありえない物も、あたかも実在するかのように描けるところにあると思います。『ここは未来』と一言添えれば、どんなことでも起こりうる。その局面に立った人間たちの心情を好きに想像・捏造できるのが本当に楽しいです」
たとえば、人間=家畜の星に引き渡された少年の話「食用人類」は実験的意欲作。どこか藤子・F・不二雄の異色作「ミノタウロスの皿」を彷彿とさせるが、やはり同作のオマージュ作品なのだそうだ。「主人公の、人が食べられることへの戸惑いが面白くて、なんで食牛に対しては何も感じないのに食人に対しては残酷と思えるんだろうと興味が湧きました。残酷なはずなのに淡白でさらっとしているF先生作品の世界観を、自分でも描いてみたくなったんです」まだ上巻のみの刊行だが、3冊くらいでの完結を見込む。この意外なようで意外でない組合せの化学反応がどのように結実するか、興味深く見守りたい。
SNSでの人気もあり、昨年末に描き溜めた作品の短編集『終末の惑星』が商業出版され、あらたに注目を集める大家さん。けれど、次に何が出てくるか判らない作品の幅の広さと自由な発想は、いまだ作家としての習作期とも言えるだろう。マイペースに描くことでその表現が熟成されてゆくのを楽しみにしていたい。

TEXT /RYOKO SUGAYA ティアズマガジン128に収録

くまみね くまみね牧場

うろおぼえ日乗02
A5/36P/300円
職業…機械整備士兼マンガ家
趣味…地方のスーパーで地元向け商品を探すこと
コミティア歴…コミティア101から
https://kumamine.blogspot.com/
シュールでありながら素朴、ユーモアの中に微かな棘。くまみねさんのエモーショナルなセンスは、見る者の心を離さない。18年夏にオリジナルキャラクターである「電話猫」のパロディイラストがSNSで大流行。ファン、そしてイラストの依頼がこの1年で急増中だ。最近ではパブロンやカルピスの広告からゲームセンターのプライズまで、様々な場所で絵を見かけるようになった。期せずして舞い込んだ状況に戸惑いつつ、「自分の絵が楽しまれていることは嬉しい」という。
幼少期は自転車で駆け回ったり、図書館で読書をしたりするのが好きだった。マンガ好きの兄の影響でマンガを描いていたが、手書きで清書の必要がない程の精密な図や文字を描ける腕をもつ父親から「下手だ」と一蹴されてしまう。父親に課された直線を引く練習に嫌気が差し、絵を描くことから離れた。中高は運動部で汗を流し、就職を機に上京。機械整備の仕事をしつつ、バイクを趣味に日々を送っていた。
再びペンを手にしたのは09年頃。ゲーム『THE iDOLM@STER』の二次創作動画に刺激を受けたことがきっかけだ。合同誌へのマンガ寄稿を機に同人誌即売会に足を踏み入れ、程なく個人誌を作成。作家仲間から「コミティア向きの作風」と評され、12年にコミティアに初参加。二次創作と並行してオリジナルマンガも描くようになった。本業の傍らプロのイラストレーターとして活動を始めたのは15年頃。当初は趣味の延長と考えていたが、今では仕事の依頼が引きも切らない。
くまみねさんはコミカルな動物の絵を得意とするが、実際の動物が取らない行動や表情は描かない。その拘りが生み出す独特のタッチは、幼い頃に読んだ絵本作家リチャード・スキャリーの影響が大きい。特徴である太く素朴な線には、「絵を描く敷居を下げたい」想いもある。「今は緻密な絵が多く、自分には描けないと躊躇う人がいると感じます。特にマンガは話の面白さと絵の上手さは別。綺麗さより、その人にしか出せない情念が滲み出た作品が創りたいし、読みたいんです」
本を生み出す原動力は、自分が手に取りたい「理想の本」を作りたいという想いだ。あまりマンガを読まない人でも興味を持ってくれそうな文庫サイズの装丁、読みやすい三段組のコマ割り。ゆるくストーリーを見せつつ、キャラクター設定や状況の整合性を緻密に組み立てる。そこには機械整備の仕事で培われた独自の美学が溢れている。
かつて絵から遠ざかる原因となった父親の葬儀で初めて、若い頃にマンガ家を目指していたが、親の反対で諦めたと知った。「だから自分がマンガ家になっても、誰からも文句は言われないだろう」と、ある種の開き直りの境地に至った。「5年前はこれほど仕事で絵を描くとは思っていなかったし、5年先も分からない。ただ、今後も絵は描いていると思います」。くまみねさんが次にどんな作品で心を掴んでくれるのか、どんな場所で出会えるのか、期待は膨らむばかりだ。

TEXT /KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン128に収録

横谷スイミー endoakka

葬式帰り#1
A5/28P/300円
趣味…漫画を描く事
コミティア歴…コミティア113から
https://twitter.com/endoakka
「なんと言っていいかわからないのですが…で始まる感想をもらうことが多いんです」と横谷さんは言う。その作風は、“起承転結”ではなく“序破急”だろうか。極端に言うと、ラスト1コマで急転直下に物語を完結。それも“死”を前触れもなく持ってきてシャットダウンすることも多く、投げっぱなしの不条理さが心に刺さる。「死=バッドエンドでは無い」という死生観は、若い頃に身内を亡くした影響が大きいそうだ。意識の中で「死」がいつも身近に存在している。
幼少期は大人しい子供だった。窓ガラスが割られているような荒れた中学時代は、目立たないように過ごしていた。ドキュメンタリーが好きで映像系の大学に進学するが、自分の作品を撮ることはなかった。その時に作れなかった自主映画を今になって漫画で描いているのかもしれない、と本人は言う。確かにカメラワークの的確さには定評があり、映像を学んだ経験が生きているのだろうか。
学生時代までそんな控え目な生活を送ってきたが、「自己表現をしたい」気持ちが強まり、漫画を描きはじめる。好きな作家が出ていたのをきっかけにコミティアにも参加。最初は売れない時期が続くが、その悔しさから、自分の好みの“貧乳女子”を詰め込んだ『貧乳風俗漫画』を発行。訴求力がある直球なタイトルと、「貧乳はいいぞ!!」など扇情的な台詞回しで盛り上げた後の喪失感が読者を捉え、自身初のPush&Review掲載作品となり、以後“貧乳女子”をテーマにした作品が続く。
何故“貧乳”なのか。本人は「体型として“漫画でも現実でも女性の胸は無い方がいい”思想の持主」と言う。シリーズの再録集『大平原』では、再録にあたり台詞、絵に手を入れたが、一番のポイントは“貧乳”という直接的な言葉を排除したこと。理由は「“貧乳が当たり前”の世界では“貧乳”という言葉は存在しない。それを漫画で実現したい」故だ。人の進化の果てに、女の人の胸が無い世界になって欲しいとの願いを込めて作った本書を一区切りとし、このシリーズは打ち止めとするという。
一方で近年は、架空の地方都市“いわもと市”を舞台にしたショートコミックのシリーズも発行。これは横谷さんの故郷、山形県某市を舞台に、実体験をベースに生まれたもの。固有名詞は変えているが、地元民には「読めば判る」内容という。本人は「地元をdisった、地元あるあるネタ」を盛り込んだそうだが、まとめ本の『いわもと』を読むと、故郷に対する愛憎が入り混じる、自分の心の奥底をさらけ出した私小説的な作品だと実感する。同郷の人からは「泣いて読みました」との感想もあったそうだ。
本人はFRONTVIEWに掲載される事が目標だったそうだが、「今回でその目標達成をしたので、プレッシャーが抜けて、これからはもっと漫画が好きになると思います」と語ってくれた。解放された横谷さんの作品が今後どう変わってゆくか、楽しみに見ていたい。

TEXT /KIMIO ABE ティアズマガジン128に収録

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