編集王に訊く41 『モーニング・ツー』編集長 寺山晃司さん

モーニング・ツー
講談社
毎月22日発売/定価590円(税込)
http://morning.moae.jp/magazine/morningtwo
2006年に誕生、2008年より月刊で発行されている『モーニング・ツー』は『モーニング』の増刊として、本誌で出来ない作品にアプローチし続ける、まさに2つ目の『モーニング』と言える存在だ。今回は編集部内でも若手ながらその辣腕が評価され、2016年6月より編集長を任されている寺山晃司さんに話を訊いた。

(取材・構成/吉田雄平、会田洋、中村公彦)

理系研究者からマンガ編集者へ

——コミティアには学生時代から通われているそうですね。昔からマンガがお好きだったんでしょうか?

子供の頃からマンガそのものが大好きです。小学生時代は『コロコロ』や『ボンボン』を読んで育って、中学生で『ジャンプ』を読み出す一方で『アフタヌーン』や『IKKI』を読み始めてました。同人誌の存在を知って、コミティアに初めて行ったのは高校一年か二年ぐらいです。当時、美術部で油絵を描いていて、その仲間達と一度だけサークル参加をしたこともありますが、自分の才能のなさを痛感しました(笑)。

——先進理工学研究科というところで修士までいかれたんですよね、一体どういうきっかけで編集者になったんでしょうか。

大学は教育学部の理学科で、理科の先生になろうと思ってたんです。ただ、教育実習が終わって、教員免許を取り終わったぐらいで「教えるのは好きだけど、子供があんまり好きじゃない」って気付いて(笑)。それで大学院に進んで生物学の研究をしていました。ただ就職活動をする時に、食品会社の研究職の説明会とかに行っても自分が働くイメージがわかなくて。「自分は何がしたいんだろう」と考えたら、改めてマンガが好きだなと思ったんです。それでマンガ編集者になろうと思って、出版社への就職活動を始めました。何社か受けていく中で、講談社に内定を貰えました。

——最初に配属されたのは『週刊現代』でした。マンガを目指していたのに週刊誌。戸惑われたんじゃないでしょうか。

マンガばっかり読んできて、『週刊現代』は電車の広告で見たことあるぐらい。読者層も自分よりはるかに年齢層が高い40〜50代ぐらいのサラリーマンがメインで、正直「大丈夫かな」と思いました。
作り方もマンガとは全然違いました。毎週会う人も、行く場所も違う。10、20の企画を同時に進めていきながら、出せるものからどんどん出していく。ただ、それがハードでありながらも楽しかったですね。毎週3回あるプラン会議で新人は毎回10本ずつ企画を出さないといけなくて。1年やってると1500本ぐらい新しい記事の企画を考えないといけないんです。すぐに自分で考えられるネタが枯渇するので、人に会って教えてもらわないと全然足りなくなってくる。それで人に会いに行く度胸はつきました。マンガのアイデアって、世間の人が何に興味があるかをどれだけ掴めるかも大切だと思うんですけど、週刊誌時代の3年間は狭かった自分の興味のアンテナを最大限に広げてくれました。

——『モーニング』編集部への異動は寺山さんの希望が通ったという形なんでしょうか。

年に1回ぐらい各社員に希望調査のようなアンケートがあるんですけど、1年目2年目は異動したくないと書いてたんです。少なくとも3年ぐらいはいて、自分がその場で役に立てるぐらいになりたいと思ったんですね。3年目にやっぱりマンガをやりたいと思って希望を出して、異動させて貰えました。『モーニング』に異動するっていう辞令が出た日、弊社の図書室に行って『モーニング』の創刊号や直近の号をずーっと読んで、こういうマンガが足りないとか、会いにいきたい作家さんのリストとか、その日の夜中ずっと書いてました。

『モーニング・ツー』編集長に

——そこから『モーニング』編集部に在籍して、今6年目ぐらいということで。『モーニング・ツー』も同じ編集部で作っているんですよね。『モーニング・ツー』編集長になったのはいつからですか?

モーニング編集部は約40人が在籍していて、全員で週刊の『モーニング』と、増刊で月刊の『モーニング・ツー』両方を作っています。『モーニング・ツー』の編集長になったのは16年の6月からです。5月に『モーニング』編集部の部長から「『モーニング・ツー』の編集長をやってくれ」と言われました。編集部内でも社歴は下から数えた方が早いくらいなので驚きましたが、当時編集部で私がたくさんマンガの連載案や、いろんな企画の提案をしていたからかなとも思いましたね。

——今の『モーニング・ツー』編集方針を教えてください。

雑誌は出会いの場なので、読者の方に目当て以外の作品を読んで「こんな面白いものが世の中にあったのか!」という体験をして欲しいと思ってます。今の読書体験って、たとえばネット書店さんとかで買うと、近い好みのものをオススメされたりするんですけど、思いもよらない作品に出会って欲しいんですよね。私自身、雑誌を読んでいて「自分の世界が広がっていく感覚」が快感だったんです。
あとはとにかく楽しいこと、面白いことをして「バカだなあ」って読んで貰いたいと思ってますね。18年の1月号では「ALL OUT!!」という作品の担当編集が、主人公ではない男性キャラの抱き枕カバーを応募者全員サービスするという、訳のわからないことをやりました(笑)。10周年の記念号は、その号だけ印刷所をわざわざ変えて表紙をビッカビカに加工したり。11月22日に発売した号は「いいにゃんにゃんの日」とか言って、いろんな作家さんに猫マンガを描いて貰ったり…。おかげさまでこの一年半ぐらい、私が編集長になってからの販売部数はちょっと上がったりしてます。

——作品の掲載可否を判断しているということですけど、どんな掲載基準がありますか。

「とにかくたくさんの人に読んで欲しい」という熱意が大前提です。月刊誌って特にそうだと思うんですけど、連載は作家さんの人生の一部を貰って描いていただくことになります。単行本が出るまでに半年以上もかかるし、作家さんにとって重いんです。これだったらこの作家さんに勝負してもらっても良いと思えるかどうかが大事です。
実際に連載が始まる時は、最初の時点で単行本の1巻にどこまで話を入れるかを必ず確認してます。作品にとって「雑誌に載る時」「単行本で世に出る時」の2回はチャンスだと思っていて、雑誌に載る時に1巻がどうなるか、ぼんやりしていると上手くいかないですね。

なぜそれを描きたいのか

——担当作品のお話を聞いていきたいと思います。私は「コンプレックス・エイジ」が寺山さんの担当作として最初に認識した作品です。連載になった経緯も興味深くて。

作者の佐久間さんは一番最初に担当した新人さんなんです。「コンプレックス・エイジ」はもともと、ゴスロリの恰好をしている人が妙齢になったときにどうなるのかというテーマの読切なんですけど、原宿で打ち合わせしている時に「そういえば、そこを歩いてるゴスロリの服を着た人たちって、40〜50代になるとどこへ行ってしまうんですかね?」という話が出て、そこから生まれたんです。それで描いた読切がちばてつや賞の入選になって。それをWebに公開していたら、ある日アクセスが急激に伸びたんですね。Webの担当者から「100万PVぐらい見られてる」って連絡があって。調べたら読者の方のツイートがきっかけで、2晩ぐらいで物凄いリツイートがされていて。それで「連載いけるぞ」と。連載版は同じような悩みを描きつつ、同時代性がある方が良いですねと話していって、コスプレイヤーの話になりました。

——これで編集のコツを掴んだ感じはありましたか。

そうですね。それまで立ち上げようとしていた作品って、作家さんが描きたいものだけを重視していたんですけど、これは作家さんが描きたいものも当然ありつつ、時代を見ながらというか、読者を意識しながら描いてもらった作品でした。それが上手くいった感じがありましたね。
綿貫芳子さんの「オリオリスープ」も上手くいった例ですね。最初は「季節の話が描きたい」という話があったんです。でも読者に「このマンガは季節の話です」って言ってもぼんやりされてしまうので、「何それ読んでみたい!」って興味を持ってもらえるようにしたいですねと話をして。綿貫さんはおにぎりの同人誌とかを作られたりしていたので、絶対ご飯が好きだろうなと思って「季節ごとの食材を絡めたご飯の話はどうですか」という提案をしたんです。そうしたら「それだけだと弱い気がするので、スープに特化しましょう。スープは子どもでも大人でも老人でも飲めるし、どんなに体が弱っていても口にできる。ご飯の大切さを描きたい」っていうお話があって。これだけ芯が通ってるんだったら絶対いけるなと判断して描いていただきました。新人さんですし最初は1巻出せたらいいですねぐらいの感じで始めてたんですけど、おかげ様で出してみたらすぐ重版がかかるぐらい好評で、無事に完結の4巻まで出せました。

——「クックパッド」とタイアップもされてましたね。あれは寺山さんの仕掛けですか?

そうですね。書店さんでの売り方を考える以外で、普段マンガに触れない人にアピールできないかなと思った時に、私がたまに料理をする時に「クックパッド」を見ていたので、取り上げてもらえないかなと思ったんです。「こういうマンガがあって、レシピとか載せてもらえないですか」と突撃をして実現しました。

——突撃の例として担当作の「終電ちゃん」が『JTB時刻表』に史上初めてマンガとして載ったというのも印象的でしたね。

これも聞いてみるもんだなと思いましたね。電車マンガを担当してた他の編集者に「やられた」って言われました(笑)。「終電ちゃん」は本当にコミティアさんの縁で生まれた作品なんです。出張編集部に同人誌を持ち込んでいただいて、そこから直した「終電ちゃん」が賞を取って、雑誌に載せたらアンケート1位だったので即連載が決まりました。
作者の藤本さんは「終電の中で起きている人間のドラマが描きたい」と言っていたので「絶対に連載できる」というのは最初から確信してましたね。終電って不思議な一体感がありながらも、おのおのが終電の中で抱えてる事情が違う。急いで帰りたい人もいれば、本当は帰りたくない人もいる(笑)。路線も山のようにあって都心なのか、田舎なのかで全然役割が違う。一日に一本しかない電車の終電だってある。話もいっぱい描けるなと。

——作者の藤本さんはサラリーマンとして働きながら描いてらっしゃるんですよね。その感覚もすごく『モーニング』らしい作品に繋がっているのではと思います。

働きながらは大変だと思いますけど、この作品の場合は意味があるかなと。サラリーマンの感覚って大事で、「働いている人たちの体感」がわからなくて苦労されている新人のマンガ家さんもいます。マンガ以外にもいろいろなことに触れていないと、会社みたいな場面を描いた時、想像がつかない部分が変になったりするんですよね。

——白浜鴎さんの「とんがり帽子のアトリエ」は担当作の中でも相当売れている作品なんじゃないかと思うんですけど、連載の経緯から教えていただけますか。

白浜さんに初めてお会いした日に「こんなお話を描いてみたいんです」と話していただいたのが「とんがり帽子のアトリエ」のベースになった物語でした。その場で「面白いから絶対に連載したい」とお伝えして、半年くらいかけて1話目を描いていただきました。
単行本の売上は、いまのところ2巻までで累計50万部です。『モーニング・ツー』は応援書店さんが110店舗ぐらいあるんですけど、書店さん向けに毎号アンケートを取ってるんです。そこで「とんがり帽子のアトリエ」の第1話の反応を「面白い・普通・つまらない」の3択で聞いたら「面白い」が100%だったんですね。全員が「面白い」と書いて返してくれたのは初めてで。これはいけると思いました。1巻は多めに刷ったんですけど即重版でした。書店さんが応援してくださったことも確実に効いていて、売れ方も王道でしたね。

——西義之さんの「エルフ湯つからば」は『ジャンプ』の作家さんだったので、ちょっと驚きました。

西さんの同人誌が、とらのあなさんにひょっこり置いてあったんです。「絵が似てるなー」と思ったら「本人じゃん!」って(笑)。購入して奥付を見たらメアドが書いてあって「ええっ」と思いながら即連絡しました。それですぐにお会いさせていただいたんです。後からお聞きしたら初めて作った同人誌で、即売会も知らなかったので、とりあえず委託して販売されていたということでした。どうりでイベントで見たことがなかったわけです(笑)。お会いしに行った時、「いままでの作品とは異なる、新しいものを描いて欲しいです」とお伝えしました。そうして打ち合わせする中で「エルフ湯」の話がポンといただけたんです。作家さんには、やっぱり新しいものを描いていただきたいなって欲求はあります。

——作家さん自身が何を描きたいか、煮詰まっていてよく分からなくなってしまっている場合があるじゃないですか。その時はどうしますか?

おっしゃるように作家さんがなぜそれを描きたいのかを見失っている場合はあります。そういう時はシンプルに「何が描きたいのか」というところを紐解いていきます。例えば「コンプレックス・エイジ」でいうと「ゴスロリが描きたい」と言われた時に「なぜ?」という部分が実は肝なんです。なんでなのかっていう質問を延々と繰り返していくうち、作家さんのコアが必ず出てくるんですね。それが見えた瞬間に「それを描きたいならこうしたらどうですか」と提案すると、作家さんの中でストンと落ちてくれる場合が多いです。

描きたいと思っていればそれだけでいい

——即日新人賞では壇上で的確な批評やコメントをその場でされていて感心してますが、だからイベントとして成立しているのかなと。公開の場でああいう風に話すことはどう思いますか?

僕ら編集者は作品を読んだ時に「もっとこうすればいいはずだ」とか「ここが分かりにくいって言ってあげたい!」とか。そういう思考訓練をずっとしてるから出来るんだと思いますね。
作家さんに与える影響が大きいっていう意味では、普段の2人しかいない打ち合わせでも言葉の重さは一緒です。それを公開するからには、その作家さん以外の方の役にも立つと良いなとか、単純にマンガの仕事の現場って面白そうだなって思って貰いたいという意識はあります。最近『モーニング』で「モーニングゼロ」という月例の新人賞の選考の様子をマンガで発表したりしてるんですけど、あれも感覚が近いです。顔の見えないよく知らないやつに文句言われるより良いかなって。編集って作家さんからすると、自分の描いたネームにケチをつけてくるイヤな奴なので、ちょっとでもそう思われないように努力しないといけないなと思ってます。

——即日新人賞だけに限りませんが、どういった新人さんを求めてらっしゃいますか。

最初はマンガを描きたいと思っていればそれだけでいいです。僕らがお手伝い出来ることはいくつかあるんですけど、一番難しいのは「プロになる気はない」とか「連載は無理」という方にマンガを描いてもらうことなんです。僕ら編集者は「描きたい」と強く思ってもらえるように薪をくべることはできるんですけど、火種は作れないんです。
オリジナルを描かれている方が集まってるコミティアという場ってすごい貴重で、そこで同人誌を作っている方々の地力は高いなって思いますね。同人誌って作家さんの中で本という形にして、それを売るんだって覚悟があるんですよ。それがある、ないは全然違う。普通の新人賞だと、その覚悟がない作品もあるんですけど、同人誌にそういうものはないです。読者の眼に晒された経験のある人たちだなと。そのせいか、即日新人賞は連載が立ち上がる率が凄い高いんです。

面白いものを作る仕事はずっとある

——今の出版不況や編集者の在り方の変化というのはどう感じてらっしゃいますか?

私はまったく悲観してないです。人間は人間であるかぎり面白いものを求める心は変わらないですから、形はともかく、面白いものを世の中に投げ続けていく仕事はずっとあるだろうなと。後は作家さんに「あの編集者っていうフィルターを通すと自分の作品が良くなる。多くの人に読んでもらえる形になる」って思って貰えるかですね。

——そうなってくると雑誌や会社単位にとらわれない横断的な仕事を求められてくるようにも思います。

そうですね。僕らって作家さんがいて初めて成立する仕事ですから、本当の意味で作家さんにとってどうするのが一番いいのかを常に考える必要があります。例えば作家さんの囲い込みって、もう意味がないなと思いますね。例えば他社の編集の方から「この作家さんに会いたい」って話が来たら、私は作家さんには絶対伝えるようにしてます。それで作家さんが良いと言えば連絡先をお伝えしてます。作家さんは僕らのものじゃないですから。ただ、作家さんに声をかけるってことは、その作家さんの大切な時間を奪うことになるので、相応な覚悟はして欲しいですけどね。

——『モーニング』編集部から独立された株式会社コルクの佐渡島さんは、作家さんのエージェントとしてまさしく横断的に活躍されていますが、ああいう仕事をどう思われますか?

得意分野が明解ですごいなと思いますね。佐渡島さんは1を100に拡大するのがとても上手だと思います。昔に比べると雑誌に載せてるだけじゃ作品が知られなくなってきているので、佐渡島さんみたいな拡散力を持っている方って絶対に必要なんですよね。時間的にも能力的にも1人で何でもは出来ないので、編集者は自分のスタンスを決めるのが大事になってくると思います。とにかく作品の中身を深めるのが得意な人とか、外と組む案件を見つけてくるのが上手い人とか。得意分野をもってる編集が雑多に揃うと組織として強い気がしますね。
私は作家さんとじっくりやるのが好きなタイプなので、それをやっていければいいかなと。「この絵めちゃくちゃカッコイイですね」とか「このセリフ笑っちゃいました」とか「ここはちょっとよくわからなかったです」とか、そういう話をしている時が一番楽しいですね。特にマンガの立ち上げほど面白い仕事はないと思ってます。新人さんが世に出るきっかけとして上手く自分を使ってもらったら、こんなに嬉しいことはないです。

(取材日:2017年11月30日)

寺山晃司プロフィール
2009年、講談社に入社。『週刊現代』編集部を経て、現在は『モーニング』編集部に在籍。2016年6月より『モーニング・ツー』編集長を務める。担当作品は「コンプレックス・エイジ」(佐久間結衣)、「インベスターZ」(三田紀房)、「アップルシードα」(黒田硫黄)、「オリオリスープ」(綿貫芳子)、「アニメタ!」(花村ヤソ)、「マンガ家夜食研究所」(村田雄介)、「終電ちゃん」(藤本正二)、「とんがり帽子のアトリエ」(白浜鴎)、「エルフ湯つからば」(西義之)、「天地創造デザイン部」(蛇蔵&鈴木ツタ・たら子)、「オールドテクニカ」(鳥取砂丘)、「やすらかモンスターズ」(竹谷州史)など。
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