COMITIA89 ごあいさつ

WEBの日常性とイベントの祝祭性。その出会いによる化学反応の期待。

最近、新しい大きな波がひたひたとやってきているのを感じます。
コミティアの申込数がここ2〜3年伸び続けているのはこれまでも言ってきた通りですが、気になるのは初参加、さらには同人誌を作ったり、即売会に出ること自体が初めてという人が増えていること。これは主に若い世代の、子供の頃からPCが身近にあり、WEBに触れて表現することを覚えた人が、オフラインの世界に踏み出しつつある。その入り口の一つがコミティアになっているのではないかと思うのです。
PCのモニターに向かい、ペンタブレットやマウスを手元でぐりぐりすると絵が描ける。完成すれば人に見せたくなる。そういう表現欲求は本能的な衝動でしょう。それは白い紙と鉛筆の場合でも同じ。「描く喜び」の出発点はアナログもデジタルも違いはありません。
とくにCGはツールの進化が著しく、上手くなるスピードも格段に速い。描く側の気持ちは、上手くなればなるほど、より描くことにのめり込んでゆくもの。成長が早いのも当然です(その代わり「ツールに使われる」状態だと、みんな似たり寄ったりの個性を感じられない絵になってしまう欠点もあります)。
さらにデジタルの利点は作品を発表するのに手間がかからないこと。自分のサイトやブログ、イラスト投稿サイトなどにアップすればすぐにたくさんの人に見てもらえます。でも、同様に反応や感想もカウンターの数字やテキストでしか返ってこない。その辺りにちょっと物足りなさもあります。
一方アナログで本を作るとなると、手間もお金もそれなりにかかるし、イベントに申込みをして、参加するのも一日がかりの大仕事です。けれど、そこで目の前で得られる評価や手応えは何ものにも換えがたい。苦労して作った本が初めて売れた感動はけして忘れられないものですし、何より生の声の反応には、テキストでは伝えきれない、表情や言葉の手触りがあります。さらには好きな作家と直に話ができたり、思わぬ出会いだってある。だからこそ、WEBだけでは飽き足らなくなった人はリアルなコミュニケーションを求めて、コミティアなどの同人誌イベントに参加し始めたのでしょう。
もう一つのイベントの効能に「〆切を作った」ことがあります。気軽な楽描きは毎日のようにしているかもしれないけれど、人に見せたり、売ったりするクオリティのある作品をきちんと仕上げようと思ったら、具体的な〆切がないとズルズルと完成しないのはよくある話。コミティアの場合ならそれが年に4回の区切りとなります。
イベントの魅力はある種の祝祭性。「ハレ」の日に向けて、丹精込めた作品を創り上げ、みんなに披露する。その高揚感と達成感が作品を完成させる大きなモチベーションになります。身近な例えで言うなら「学園祭の当日とその準備期間」みたいなものでしょうか。お祭りの日をどれだけ楽しめるかは、誰でもその準備でどんなに頑張ったかによるのです。
そしてこれも「学園祭」の感覚に近いのが、同人誌即売会はボランティア体制で成り立っていること。もともと「自分たちの本を売る場を自分たちで作ろう」というのが出発点なので、会場設営や撤去を参加者みんなで行うのが一般的だし、「自分たちのこの場所を大切にしたい」という参加者の共有意識が場の盛り上がりを高めます。コミティアが「みんなで作るコミティア」という姿勢を大切にするのもその気持ちを忘れないでいるためです。
例えばいつも音楽をダウンロードして聴いているけれど、好きなアーティストのライブには足を運ぶような感覚。ON/OFFの自在な切替えがこれからの表現者の賢い楽しみ方かもしれません。ツールやメディアはあくまで使いこなして楽しむもの。アナログの技法にこだわる人が、絵をスキャンしてWEBで発表したり、デジタルで描く人が、巨大なポスターをプリントして展示会をしたり。両方を使いこなせればさらに作品の可能性は広がると思うのです。
さて、そんな流れの一つとして、ここでお知らせすることがあります。次回の11月のコミティアは今回と同じ西1ホールで開催しますが、同日アトリウムではイラストコミュニティサイトpixivの「pixivマーケット」が行われます。これはコミティアとpixivが共同で企画したもの。「お絵かきがもっと楽しくなる場所」を目指すというpixivは100万人以上の会員がいる人気サイトですが、こうした同人誌即売会に踏み出すのは大きな冒険でしょう。コミティアとしてもこうした新しいメディアから新しい参加層が生まれるのは大いに歓迎します。
何より彼らには一度コミティアを体験してみて欲しい。そこにはマンガや、その他の小説・音楽・アニメ・ゲームといった表現によって語られる圧倒的な量の「物語」が詰まっています。WEB絵師の人たちがそれにどう反応するか、そうした出会いの化学反応のようなものもイベントの楽しみの一つだと思うのです。

最後になりましたが、本日は直接2022/委託106のサークル・個人の描き手が参加しています。西ホールのこれがほんとのギリギリの数字です。それでも200以上のサークルが落選の憂き身にあっていて、本当に申し訳なく思います。
イベントとはもしかしたら触媒のようなものかもしれません。今日のこの会場でどんな出会いがあり、どんな化学反応が起こるのか。その結果生まれてくるものを大いに楽しみにしています。

2009年8月23日 コミティア実行委員会代表 中村公彦