COMITIA83 ごあいさつ

マンガの魅力を広める立場と深める立場について

その人は昨年の3月に日本を離れ、韓国へ旅立ちました。韓国というマンガ未開の地へ、初めてという日本マンガ専門店の店長として。
つい10年程前までは、日本のマンガやTV、映画、音楽などを放送したり、出版したりが禁じられていた隣国・韓国。しかし今、もの凄い貪欲さで日本の大衆文化を吸収しようとしています。
それまでも韓国にマンガの歴史がなかった訳ではありません。しかし、日本の海賊版や、貸本ブーム、ネットの普及といった時代の荒波にさらされ続け、未だ日本のように文化として定着・一般化したとは言えないようです。あくまで「子供の読む物」というイメージが強かったり、日本より苛烈な受験戦争や、2年間の兵役といった節目でマンガを卒業してしまう読者も多いと聞きました。
彼はそこに日本のマンガを翻訳出版する韓国の出版社が本格的なマンガ専門書店を立ち上げるのにヘッドハンティングされました。本人は日本の書店でマンガを扱って約20年。マンガの成長期を支えた書店人の一人と言ってよいでしょう。大阪の大手書店で彼のいたコミックコーナーは、熱意あるPOPに溢れ、コーナー全体からマンガへの愛が強く伝わってくる評判のお店でした。
彼とコミティアとの縁は遡ること7年前。「兄弟仁義とその時代」展という同人誌の歴史を振り返る原画巡回展を企画した際、大阪の書店での開催に骨を折ってくれたのが出会い。同人誌作品の展示ということで、メリットの薄い書店での引き受け先がなかなかなく、諦めかけていたところ、「難しいけれど、ぜひやりたいです!」と力強く言ってくれたのが彼でした。それ以来、関西在住の彼と会うのは年に1度あるかないかでしたが、頑張っている評判を聞くたびに、私も大いに励まされたものです。
その彼が故と縁があって日本を遠く離れた異国の地へ。旅立ちの直前に東京で会い、いつか彼の地での再会を約束しました。そして、その約束を果たすために昨年の11月、ついに私も韓国へ行ってきました。
訊ねた彼のお店は想像以上に広くきれいで、たくさんの日本のマンガ家の色紙が飾られています。出版社からも信望の厚かった彼の元にはすでにたくさんの編集者が訪れているようで(某誌は編集部全員で訪韓したとか)、そのお土産の色紙の数は日本の大型書店にも負けない数になっていました。お店の入口には店員各人のコンペ形式で、作品に合わせて工夫を凝らしたディプレイのコーナーもあり、すでに請われた実力を発揮しているようです。
言葉の通じない彼の国では、当人にしか判らない苦労も多いことでしょう。日本では当り前にできた仕事が、其処では簡単にはいかない。そうした焦りや悩みはいかばかりかと思います。それでも出迎えてくれた彼の笑顔には一点の曇りもなく、彼の地でも変らない「マンガを売ることへの愛」を語ってくれました。何より子供たちがたくさん来てくれることが嬉しく、大人になっても忘れないマンガとの出会いとなって欲しいと。
文化というものはつねにこうしたエバンジェリスト(evangelist):伝道者を必要とするのかもしれません。今日の内外に大きく広がった日本のマンガ文化の地平もまた、さまざまな有名無名の伝道者達が道を切り開いてきた結果だと思います。
彼もまた日本を飛び出し、異国での日本マンガの伝道者としてその使命を果たそうとしています。彼の名は野田真人。お店の名は「Comic Cozzle」。韓国に旅行される際にはぜひお訪ねください。
おかげ様で大きなエネルギーを貰った私も、この国で負けずにコミティアを頑張ろうと思った次第です。それぞれマンガの魅力を広める立場と深める立場で。

最後になりましたが、本日は直接1728/委託110のサークル・個人の描き手が参加しています。前回11月よりは参加数が減り気味ですが、これは前年の経験からも次回5月の2ホール拡大開催に申込みが流れた気配大です。おかげさまで今回は見本誌コーナーが会場内に戻せました。どうぞじっくり作品に向き合ってもらえるようにお願いします。
絵と言葉で視覚的に伝えるマンガに国境や言葉の障壁はきっと低いでしょう。ましてや同じ国の描き手と読み手の間で伝わらないことはきっとない。そう信じて今日という日に新しい作品と出会えることを楽しみにしています。

2008年2月10日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

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