COMITIA122 ごあいさつ

『日本のZINEについて知っていることすべて』を読んで考えたこと

11月23日コミティア当日の朝を、私はドキドキする気持ちで迎えるでしょう。前回からお知らせしているように、会場側の都合により通常は前夜に行うホールの設営を今回は早朝の短時間で行います。このピンチに驚いたのは早朝設営に協力してくれる登録者が200名を超えて、満員御礼札止めとなったこと。たくさんの熱い気持ちにスタッフ一同感激しています。「みんなで作るコミティア」を合言葉に一緒に頑張りましょう。先にこの「ごあいさつ」を読んだ方も、無事の設営終了を祈りながらご来場くださいね。完成していたら、どうぞ心の中で小さく拍手を!

さて本題です。『日本のZINEについて知っていることすべて』(誠文堂新光社)という本を読みました。副題に「同人誌、ミニコミ、リトルプレス 自主制作出版史1960~2010年代」とあるように、日本の自主制作出版(本書ではZINEと総称)の歴史を、膨大な写真資料と共に丁寧にまとめ上げた総324ページに及ぶ大著です。著者は野中モモさんとばるぼらさん。コミティアの歴史も一つの章立てで大きく取り上げてもらい、感謝しています。

読んでいて驚くのは、およそ60年前から今日までの種々雑多で膨大な発行物を、当時の時代背景を踏まえながら、きちんと体系づけて分析していること。著者たちの幅広い知識量と資料収集にかける情熱に圧倒されます。

あらためて確認できたのは、こうした自主制作出版の歴史を研究する上では、印刷技術の進歩や、流通媒体の変化も見逃せないこと。

印刷で言うなら、いにしえのガリ版刷りや青焼コピーから、コピー機がコンビニに置かれ、家庭用プリンターが普及し、同人誌専門印刷所が出来たりします。誌面作りに関しても、手書き文字の時代があり、日本語ワープロが普及し、PCでのDTP作業が一般化して行きます。流通ルートとて、郵送のニュースレターやデモのアジビラ的な物から、ミニコミを置く店が生まれ、フリーペーパーの専門店が出来、一方で同人誌即売会のようなビッグバンがあり、といった具合。まずニーズが生まれてメディアの変化が促されたり、身近なツールの進化が新しい表現を生み出す過程が、多角的な視点から分析されます。

思えばマンガ同人誌の歴史もついコミックマーケットの誕生からイメージしがちですが、その遥か昔の肉筆回覧誌の時代から同人誌は存在しました。それらをみんなが集って売買する場所としてコミックマーケットが求められ、生まれたのです。需要と供給のバランスが市場を生むという典型例とも言えるでしょう。

ハード面の進化の一方、ソフトとしての内容・テーマも時代と共に変遷し、細分化してゆきます。安保闘争などの政治運動的主張や、マスコミに対するアンチテーゼとしてのミニコミ文化、音楽ムーブメントの影響(ヒッピー、アングラ、フォーク、ロック、パンク…)などなど。個人的な研究資料の出版は普遍的に存在するし、文芸やマンガの同人誌文化もそれらカテゴリーの一つでしょう。ファッションや写真などを通じた時代評論的な物、SNS的なコミュニケーションを目的にした物も生まれました。そこには個人的発信の集積物であるが故の、時代や世相の気分の映し絵のような一面を見てとれます。

面白いのはインターネットとの関係。ここ20年ほどネットは確かに大きな荒波ではありましたが、個人の発信という意味では、むしろ紙媒体とは裏表のような存在。どちらかに偏るとその揺り戻しがあるような補完関係がそこにはあるようです。この辺りは長くコミティアを運営してきた上で実感する部分です。

これらを踏まえて「ZINEと、ZINEではない物をどう区別するのか」も本書の大きなテーマです。DIY性とか、非商業主義とかで規定しようにも、どこもグラデーションの上に明確な線は引きづらい。むしろ「ZINEではない物」の存在感が浮き彫りになります。「ZINEではない物」との距離感がZINE側の立ち位置を規定し、それは可変性のあるものと考えた方がよいのかもしれません。

何にせよ時代と共に敏感に私たちの表現は変わります。あらためて、ダーウィンの言葉とされる「最も強いものや、最も賢いものが生き残るのではない。最も変化に敏感なものが生き残る。」という一節を思い出します。その囚われない自由さこそが私たちの何よりの強みだと思うのです。

ということで、駆け足の紹介・感想となってしまいましたが、たいへん刺激的な一冊でした。まずはこの大いなる労作を手に取って読んでもらいたいと思います。今回の会場ではジュンク堂書店の出張販売で取り扱っています(東6ホール/企業24)。ぜひお立ち寄りください。

最後にあらためて御礼を。今回ほど「みんなで作るコミティア」という言葉を実感したことはないかもしれません。運営面では試練の回となりましたが、たくさんの協力者が手を挙げてくれたことは、大きな支えとなりました。この感謝の気持ちはいつまでも忘れずにいたいと思います。

それでは柄にもなく敬虔な気持ちで伝えます。本日は4801のサークル・個人の方が参加しています。全ての参加者にとって今日が祝福された一日となりますように。そして、あなたにとって「魂と魂が握手するような出会い」があることを、心から祈っています。

2017年11月23日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

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