サークルインタビュー FrontView

山田怜 0324制作所

『ソフィアの牙』
B5/56P/500円/青年
生年月日…8月25日
趣味…読書、映画鑑賞
コミティア歴…コミティア72から
http://low0825.blog62.fc2.com/
 高校の同級生だった男女の再会と、旧交を温めるさまを情感豊かに描いた現代劇『コーヒーゼリー』で「第1回 モーツー×ITAN 即日新人賞」優秀賞を受賞。更に、コミティア104のはがきアンケートでトップ票を獲得し、フレッシュな描き手として注目を浴びている山田怜さん。聞けば、今の活動は〝リスタート〟なのだそうだ。
大学在学中に漫画の執筆を始め、コミティアへの参加を経て「アフタヌーン四季賞2008年春」佳作を受賞。その後、『別冊少年マガジン』で『蓬莱ガールズ』(山田瑯名義)を発表し、幸先良くプロデビューを果たすも、程なくして、大きな壁に突き当たってしまう。「連載の途中で、自分の描きたいものが分からなくなってしまって……一段落したあと、描くのがイヤになる前に、漫画から一旦離れる決心をしました」と当時の苦衷を振り返る。
しかし、書き手として方向性を見失っていた頃に、過去、運命的な出会いをした一冊の本を思い出した。とある銭湯に関わる人々が織りなすヒューマンドラマ『アンダーカレント』(豊田徹也氏著/講談社)だ。「当時、『世の中にはこんな漫画があるのか!』と衝撃を受けました。私の知らない世界を教えてくれた、心のバイブルです」と語る。その後、豊田氏と手紙のやり取りをするうち、描きたい漫画のヒントを掴んでいったという。
最新作『ソフィアの牙』は、心に深い傷を負った男と少女の物語だ。内乱が勃発し、皇帝一族が処刑されるという事件が起こった国でのこと。過去に愛する家族を殺され、復讐に明け暮れていた頃の獰猛な戦いぶりから、〝狼〟と渾名される男は、街中で行き倒れていた少女・ソフィアを保護する。ぼろをまとっているが、その出自に重大な秘密を持つ彼女との邂逅が、失意に沈んでいた〝狼〟を予期せぬ運命へと導いていく……。
「人と人との繋がりは、家族や友人、恋人といった、肩書きの付かないものばかりだな、と。そんな、一言では言い表せない人間関係に強く興味を惹かれます」。その言葉通り、〝狼〟とソフィアとの関係に肩書きはない。ただ、ふたりは共に悲劇を体験し、家族のために危険を顧みず行動する強い意志を持っている。彼らの間には確かに、言葉では表現し得ない「絆」が感じられるのだ。
苦しみの時期を乗り越え、心新たに漫画に取り組んでいるという山田怜さん。「色々な人と出会ったお陰で、物事の見方や価値観が以前と随分と変わった気がします。その経験を活かして、我武者羅に漫画を描いていきたいです」その心にはもう、迷いはなさそうだ。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン110に収録

くみちょう くみちょうBOX

『死ぬ気で恋!』
B5/40P/400円/少年
生年月日…3月6日
職業…一応漫画家
趣味…音楽鑑賞
コミティア歴…5年
https://twitter.com/kumichooooo
 緻密なトリック、 可愛い女の子と軽快なコメディ。読んでいて元気になるエンタテイメント。それがくみちょうさんの作品の無二の魅力だろう。『また君に会える。』では田舎への帰省で少年が出会った少女との甘酸っぱい恋に悶えさせられ、『死ぬ気で恋!』は彼女が実はとある国の戦闘部族の姫!というギャップと、甘々な恋模様がたまらなかった。近年商業誌でも次々に活躍の場を広げている注目の若手作家の一人だ。
専門学校ではイラスト学科に通っていた彼女だが、漫画家を目指そうと思い立ったのは意外に遅く卒業間際。漫画学科の作品展示が、進路を決めかねていた彼女に天啓のように映った。絵の経験が活かせて好きな話作りもできる職業はこれかもしれない─。卒業後、最初の持ち込みで月例賞の最終候補手前まで選考に残ったことで、想いは確信に変わる。しかし現実は甘くなかった。「次のネームが全然だめだった。納得できない意見を言われたり、ダメ出しされたり」とプロの壁にぶつかってしまう。とにかく自分の作品を見て貰いたい─。コミティアに始めて参加したのはその頃、2009年のことだ。ネットでの投稿も合わせて、気軽に作品を発表して感想を貰える場で徐々に自分の創作ペースを掴んでいった。「読み易く、分かり易く、楽しく!が自分に合ったリズムです」
そんな中、投稿用に思いついたのはインターハイを目指した高校時代の、女子バスケ部での経験を活かした作品だ。厳しい監督に怒鳴られながらハードな練習に明け暮れた日々だったが、よくて県のTOP8止まり。「だから自分と同じような普通の女子バスケ部が全国を目指す話を、部室にいるような臨場感で描きたかった」そうだ。しかし登場人物が女子ばかりの話では、当時担当のついていた少年誌では無理かも…そう思い2011年にコミティアで発表。そのバスケ漫画が原案となった「B.B.GIRLS」で、2012年に『コミックブレイド』にて連載が決まり、同年『少年ライバル』で「のっとれ小松銀座商店街」で連載デビュー。その後も『ビッグコミックスピリッツ』、『ヤングアニマルイノセント』、『ひらり』など躍進を続けている。厳しい部活で鍛えられたメンタルが原動力になったのだろうが、本人はその理由を「持ち込みだけでなく、コミティアで活動していたことがチャンスに繋がったところもある」とふり返る。
「話作りが大好きだから、ネタは消化できないほどある。なので長編ではなく、短めの話をいろいろ描きたいし、ネタが続くうちは商業と同人関係なく活動を続けたい」と語る彼女は、漫画と同じく始終明るい調子だ。めげることなく先を見つめ続け、是非大きな舞台へとたどり着いてほしい!

TEXT / SEIJI OCHIAI ティアズマガジン110に収録

しんどうさん かばやき

『あいもかわらず、いつもどおりの。』
B5/20P/200円/少年
生年月日…9月19日
職業…漫画描き
趣味…ゲーム
コミティア歴…コミティア73より
http://s-miso.arasixx.sub.jp
 幼稚園児の頃、まだマンガを読んだこともないのに「先生に『お絵かき上手だから漫画家さんになれば?』と言われたのを真に受けて、ずっと漫画家になると言い続けてました」というしんどうさん。底抜けに明るいラブコメが持ち味の4コマ漫画家さんだ。
商業連載を同人誌にまとめた「日下部くんanother」は恐い顔名物のサラリーマンと、伊達眼鏡OLの男女入れ替わり4コマ。この手の作品ではキーポイントになる着替えやトイレのシーンはたったの1コマでスルー。主に描かれるのは少しずつ進展していくふたりの関係と、巻き込まれる周辺とのギャップ。コロコロと変わる表情が魅力的な作品だ。
本格的に漫画家になるべく動き出したのは高校生の頃。特に『ドラクエ4コマ』の関連誌『月刊少年ギャグ王』(エニックス/休刊)に載るのが夢だった。毎号載る作家インタビューに登場するのを目指して投稿を繰り返し、めでたくデビュー。当初はゲームアンソロなどにコミカライズを描いていたが、勧められて挑戦した4コマが、しんどうさんの作風にぴったり合っていた。「その担当さんに勧められなかったら描いてなかったと思う、感謝してる」
その後、他誌に移り萌え系4コマの連載を開始。自分の思い描いていた4コマとの違いを感じつつも、編集さんと手探りでかわいいものを詰めこんで作っていった。「その頃は萌え系というのがよくわからないまま描いていて、4コマに向いてないんじゃないかと悩んだ時期もある。今はようやく自分なりに4コマとはこうなのかというのが見えてきた」と。セリフは削りまくって簡潔にし、話を詰めすぎないように。最初の1本と最後の1本を決めてから、間をつなげていくような作り方。そして何よりもキャラクターに情が移って好きになること。作家が描いてて楽しくないと、読者が読んでも楽しくないということなのだろう。
最近は4コマ慣れしすぎているため、時々ストーリーを描くようにしているとか。先日3年半ぶりに描いたシリーズが「あいもかわらず、いつもどおりの。」。極度ににぶいメイドと、彼女に恋する坊ちゃん。気楽に描ける、息抜きみたいなシリーズだと言うとおり、力の抜けたこそばゆいラブコメショートに仕上がっている。このふたり、実はまだ4コマを描く前、一番最初にコミティアへ参加したときに作った本のキャラで、時々思い出したように描くお気に入り。ブランクがあっても変わらずに楽しませてくれるのは、4コマの経験が生きているだけでなく、キャラクターたちを愛しているからなのだろう。

TEXT / TAKEMASA AOKI ティアズマガジン110に収録

アジイチ 味市

『Dear My Teacher6』
B5/56P/500円/百合
生年月日…6月5日
職業…漫画家兼アシスタント
趣味…愛鳥と遊ぶ
コミティア歴…4年ほど
http://k-aji36.lix.jp/aji.htm
「Dear My Teacher」は高校教師・薫と生徒・みことの恋物語。当初薫は教師としての立場と過去の傷から、みことの恋心を拒絶する。しかし巻を追う毎に二人の距離感が縮まり、直近の6巻ではお互いの気持ちをさらけ出し“約束”を果たす。紆余曲折を経て様々な葛藤を乗り越えた末に想いがつながるクライマックスは、心にジーンとくるものがあった。晴れてカップルとなった二人だが、作者曰く「結ばれてからが本番」とのことなので、まだまだ波乱が予感される。
このシリーズを描き始めた頃、作者のアジイチさんは「商業用のネームが没の嵐で、自分が本当に描きたいものが分からなくなっていた」と言う。ならば同人で「今一番描きたいものを描こう」と開き直り「長編・シリアス・百合・年の差」と好きなものを詰め込んだ。それが結果として多くの読者を得、作者の転機にもなったのだから面白い。
そして何より大きいのは「漫画的持久力」がついたこと。長編にチャレンジしたことで、それまで、プロットやネームだけで満足してしまっていたのが、「定期的に描いて発表する」くせがついたと言う。
もう一つのシリーズ「Cafe Yururi」は、カフェで働く6人の女性達の一筋縄ではない関係性を丁寧に描き、複雑に仕掛けられた伏線が徐々に明かされる演出が心に響く。現在中断中だが、「『私はこういう漫画を描いています』と言える作品にする」と思い入れも強いようで、再開を待ちたい。
百合中心での活動だが、描きたい題材はマイノリティにスポットを当てたもの。百合はあくまでその一つとして捉えており、明るくても暗くても、マイノリティ故の苦悩が絡んだ作品が好きという。今回のコミティアでは青年ジャンルの申込みで、新作は百合ではない「薄暗い話」になる模様。いわば「隠していた性癖の暴露」とのことで、新たな作風に期待大である。
今後、商業では『ガンガンオンライン』で連載中のコミカライズ作品「デレラジさん」を頑張りつつ、水面下でいろいろ準備中。同人は「Dear My Teacher」を中心に、自分のペースで、その都度描きたいものを丁寧に描いていきたいという。
「自分の漫画を読んでいる間は、その日あった嫌なことも忘れて小旅行でもしている気分になってもらいたい。5分でも10分でもそんな時間が届けられたら嬉しい」とアジイチさんは語る。彼女から渡される様々な旅への物語は、これからも私達を楽しませてくれるだろう。

TEXT / KIMIO ABE ティアズマガジン110に収録

紙ラボ PRINTGEEK

『PLOTTER vol.4』
A4変形/52P/1000円/評論
<紙ラボ>
生年月日…1984年8月13日
職業…編集部員
趣味…朝ごはんスポット探し・『PLOTTER』の編集
コミティア歴…コミティア99から
http://yohaku.biz
<carmine>
生年月日…1991年4月5日
職業…デザイナー
趣味…サーバー管理・食事すること・同人制作
コミティア歴…サークルとしてコミティア100から
http://clocknote.net
 印刷やデザインといったテーマを取り扱う同人雑誌『PLOTTER』。2012年よりスタートした同誌は、年2回刊行のペースで、2014年現在は4号まで発行されている。毎号目を惹くのは本職の編集者・デザイナーによる美しい装丁だ。編集を行うのは編集長兼メインライター・紙ラボさんと副編集長兼アートディレクター・carmineさんの二人。
『PLOTTER』のvol.1では新聞輪転機によるタブロイド紙での印刷。vol.2ではコールドフォイルというオフセット印刷で「箔押し」のように金属箔を扱える手法での印刷…といった具合に毎号、特殊印刷・加工を行っており、そのレポート記事を掲載。出来上がった本自体が印刷見本として機能している。同人作家をターゲットとしているため、特殊印刷は「個人が発注可能なもの」に限定。一昔前なら商業誌でも珍しかった印刷加工が身近になっているという話は読んでるだけでも楽しい。「出来ることを知ってればやりたかったって人に届くといいなと思ってます」(carmine)。
毎号の特集記事の1つに、二人が主催する「PRINTGEEK MTG」という勉強会の誌上再録がある。この勉強会では実践的な同人ノウハウをテーマに、毎回異なるゲストを招いて開講。これまで編集者やデザイナーはもちろん、同人音楽のプレス会社、フォントメーカーと様々な角度から同人の周辺にスポットを当ててきた。
これらの記事は同人活動をしている人に役立ちそうなものを前提にしているが、基本は彼らがその時々で興味を持っていることだ。こうしたスタンスが、綺麗でカッチリとしたデザイン/雑多でマニアックな情報が同居する『PLOTTER』独特のテイストを生み出している。「自分たちは面白いと思ってるけど、マニアックすぎて面白がってくれる人は少ないだろうなって思ってたので、反響があったのは意外でした」(紙ラボ)、「『デザインはプレゼントだ』という言葉が好きで、これやったら喜んでくれるかなと相手の気持ちをよく考えてます」(carmine)。
「世の中のメディアに紹介されないものでも面白いものは沢山ある。それを身近な人に届けたい」(紙ラボ)。今回コミティアX4のワークショップ企画で「PRINTGEEK MTG」出張版が開講。そんな彼らが贈ってくれる情報をぜひ受け取ってみて欲しい。

TEXT / YUSUKE KANAZAWA ティアズマガジン110に収録

TNSK 壁の彩度

『ニクノヤワラカ』
B5/14P/500円/イラスト
職業…漫画家・イラストレーター
趣味…散歩
コミティア歴…4年半
http://chromaofwall.com/
ピンク髪にメイド服、半ばまで露になった巨乳。TNSK氏の行く所その姿あり、というサークルの看板娘にして今回のチラシも飾った、その名も「高木さん」。氏のイラストや同人誌では(文字通りの意味で)料理されたり食べられたりひたすら酷い目にあい続ける不死身の少女である。
「基本的には歪んだ性欲から生まれたキャラなのかもしれません。キレイで可愛いものが好きで、グロもキレイで可愛いものだと思っているので」
発祥はアンダーグラウンドな“その筋”のイラスト掲示板という彼女。可愛らしいグロさのインパクトにやられる者が後を絶たず、彼の“何してもいいのよ”という宣言の下に数多の描き手によって描かれ、弄り倒され、トリビュート誌まで作られた。結果、個人がアマチュア活動で作ったキャラクターが局所的にせよ一ジャンルを形成するという特異例の一つとなっている。
「僕のキャラという意識はあまりなくて、僕が一番高木さんのことが好きで一番描いているという感じです」
グロと言っても直接的なスプラッタ描写はなく、同人誌は飛び切りファンシーに、あるいはシュールに、デザイン性の高い装丁とレイアウトでパッケージされている。その中で残酷な要素は巧みに覆われ、ボカされ、想像し察する事で始めて気付く事ができる。「他の人にはショッキングなものだったりするので、ある程度一般良識に基づいて」という配慮のなせる業でもあるのだろうが、その隠された意味を発見する楽しさが見る者の好奇心をくすぐるのだ。
元々、イラストを描き始めたのは大学卒業後と遅めで、人の目に触れる場所で発表したのはpixivが初。その後、現サークルメンバーのyoukiss氏が開催していたアニソンクラブイベントのフライヤーを依頼されサークル結成に繋がった。いつかは同人誌を…と思っていたそうだが、すでに同人誌はスタートではなくなっている点、時代である。そして商業誌でイラストを、さらに本格的なマンガ連載も手がけるようになった今、商業も同人も「どっちも仕事として、どっちも趣味として捉えています」とボーダーレスな創作観を見せる。
「同人誌では装丁ありきで考えてみたり、絵本みたいにしてみたり、コンセプトありきで後からお話を作ってみたりと、色々実験的にやっています。そこが同人活動の醍醐味でもあると思います」
彼も、高木さんも、アンダーグラウンドをポップに昇華させて聴衆のはらわたをくすぐるトリックスターなのかも知れない。

TEXT / TERUO MIZUNO ティアズマガジン110に収録

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