COMITIA82 ごあいさつ

デジタル表現の時代に、アナログなメディアの可能性とは?

縁あって「モバイル・コミック大賞2007」(主催/宝島ワンダーネット)というコンテストの審査員をさせてもらいました。これは名前の通り、携帯電話(モバイル)で読むマンガのコンテスト。応募作品には普通のコマ割りのマンガもあれば、携帯のディスプレイに合わせたマンガもあり、アニメーション部門では動くキャラクターも活躍するという、ユニークな作品ぞろいでした。マンガがさまざまなメディアからコンテンツとして注目されているなあと考えると同時に、そのメディアに合わせて進化しようとしていることも肌で感じることができました。
最近の傾向として、マンガはこれまでの紙の上の表現から、PCや携帯のディスプレイで読むものにまで広がろうとしています。WEB配信のマンガ雑誌が増えつつあるし、あるシンポジウムで聞いた話では、紙媒体の不振の一方で、某大手出版社のこの1年間の携帯コミックの売上の伸びは800%とかで、各社が目の色を変えているのも判ります。
古い世代として紙の手触りにこだわりたい気持ちもありますが、発表メディアが広がることを拒否する必要はないでしょう。多くの子供たちが、紙の本よりも携帯やPCで読むことに馴染んでいくとしたら、そのスタイルを取り入れて行くのも時代の必然なのかもしれません。
ここ数年、多くのアマチュアの描き手も個人HPやブログを持つのが普通になりました。昔風の言い方をすれば「一億総クリエーター」の時代でしょうか(最近はプチクリとか?)。それは些細な日常雑記であれ、趣味のコミューンであれ、自作の発表の場であれ、人はつくづく自己表現が好きなのだなあ、と思います。
ここで重要なのはそうした広範なスケールを持つ通信ツールが私たちの身の回りに普及・浸透したことです。たとえば「携帯電話」は私たちの生活パターンを大きく変えてしまいました。少し前のマンガを再版するのに、携帯電話の有る無しで話のリアリティが今とまるで変わってしまい、再版がし辛くなったというのは出版関係者の口からよく聞く愚痴です。
目の前に発信できるツールがあり、そこにコミュニケーションが成立するならば、絵が描ける人は当然そこで自分のマンガやイラストを見せたいと思う筈。それはつまり、まずWEBを入り口にデジタルで絵を描き始める層が生まれていることを意味します。これは実は若い世代にとどまらず、すでにある程度年齢が行っている人や、昔描いていたけれどWEBを始めて久し振りに復活したというタイプも含みます。
マンガが紙の上で描き、紙の上で読む時代から、デジタルでも描かれ、デジタルでも読まれる時代に。実際に紙の印刷工程がほとんどデジタル化されていますから、これも自然な流れでしょう。それでも絵を描く人口が膨大に増えたことは歓迎すべきことですし、一枚絵(イラスト)からマンガへ、さらに紙媒体での発表まで辿り着く人もけして少なくはないと思います。
コミックマーケットに代表される日本の同人誌文化が、まず裾野を広げたことを評価されるように、WEB人口からの表現者の流入もまたマンガの新しい時代を作っていくのかもしれません。何より自らの指の先から線が生まれ、描かれたキャラクターに命が宿るという、絵を描く原初の感動は、どんなツールを使っても変わらないと思うのです。
そんな過渡期に、WEBでいうところのオフライン、紙媒体での表現が中心のコミティアをはじめとした同人誌即売会メディアはどう対応してゆくべきなのか。貴重な休日を潰して、わざわざ遠い会場まで足を運び、場合によっては会場の机イス運びまで手伝わなければ成立しない、そんなアナログ?な存在が生き残っていけるのでしょうか。けれど私はその未来にさほど悲観的ではありません。
どれほどWEBが発達しても、人が人と直接つながりたいという欲求、リアルなコミュニケーションを求める気持ちは変わらない。目の前で本が手に取られることにドキドキし、逡巡の上その一冊が売れた時の感動に、WEBの手軽な便利さはやはり敵わないだろうと思います。
そしてデジタルの利便性とアナログの体感性をうまく組み合わせることができれば、同人誌即売会のようなリアル(現実)なイベントの魅力はけして失われないし、さらに面白い何かが創れる筈だと信じています。コミティアはまだまだ多様なかたちで成長していくつもりなのです。

最後になりましたが、本日は直接2005/委託110のサークル・個人の描き手が参加しています。ついにビッグサイト1ホールでも二千サークルを突破してしまいました。実は5月に2600サークルが集まった時よりも、深く静かに驚いています。そしてこれからどうなっていくのか、どうしたいのかを考えています。少なくともオフラインのコミュニケーションがこれほど求められていることにちょっとだけ安心しました。
また、ティアズマガジン前号から、コミティアはスタッフ募集に力を入れています。来年5月に決定した2ホール拡大開催に向けて、私たちにはまだまだ現実の人の力が足りません。前回は勢いで何とかできましたが、毎回そうは行きません。どうか多くの方のご応募をお待ちしています。
コミティアという一日限りのイベントは、サークルの描き手の創作行為の結晶と、一般参加の人達の「面白いマンガが読みたい」という熱意と、そしてボランティアのスタッフの日夜の作業の積み重ねで成り立っています。いつもは声高に言うつもりはないのですけれど、今日はそのことを少しだけ意識してもらえたらと思います。
コミティアはその趣旨に賛同し、協力してくれるスタッフをいつも求めています。

2007年11月18日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

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